社団法人 国際農林業協力協会

  Association for International Cooperation for Agriculture and Forestry (AICAF

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    副会長 吉村 龍助 E-mail: r.yoshimura@aicaf.or.jp

 提言 アフリカ農業・農村開発協力について

    TICADVのために−                       〔 ⇒ PDF 〕

2003年 8月 

今年9月末に第3回アフリカ開発会議が東京で開催されるに先立ち、社団法人国際農林業協力協会(AICAF)は、アフリカの農業・農村開発協力について、以下のように提言する。

国際農林業協力協会会長 角道 謙一


  
提言1 アフリカ農業生産拡大の必要性
   

サブサハラ・アフリカ(以下単に「アフリカ」という。)の開発に関して現在必要なことは、増大する人口に対応する農業生産の拡大をどのように実現するかということである。
 農業生産の持続的拡大は、食料自給率の向上、食料安全保障の確保、栄養不足人口の縮減、貧困削減の目標達成のために必要であり、さらには現在低迷を続けている経済成長の原動力となりうるものであるが、これが人口増加に及ばず、一人当たり農業生産が停滞を続けていることはアフリカ開発の基本的な問題である。
 この様な事態をもたらした原因は、アフリカの置かれた歴史的地位や自然的環境をはじめとして、幾多の要因をあげることができるが、今日必要なことは、アフリカ自身のオーナーシップに対応して、国際社会として、実効ある対応を行うことである。
 幸い、最近ローマのFAOサミット、カナナスキスやエビアンのサミットで採択されたG8アフリカ行動計画のように、アフリカ開発における農業生産拡大の重要性が強調されはじめている。
 
我が国としては、このような国際的な動向を積極的に支援すると共に、アフリカ諸国の国別援助計画の作成等に関連して重要な課題として取り組むことが必要であると考える。
   

〈参考事項〉

1.サブサハラ・アフリカ農業生産の現状

    人口1人当たり主要穀物等の生産の現状

 

トウモロコシ

ソルガム

ミレット

いも類

合 計

1970年生産量

(指数)

4,710

(100)

11,790

(100)

10,350

(100)

8,000

(100)

123,950

(100)

158,800

(100)

1人当たり生産量

18.0

45.0

39.5

30.5

472.7

605.7

単収

1.34

   0.99

    0.67

    0.59

    6.17

 

1980年生産量

 (指数)

6,110

(130)

13,870

(118)

11,190

(108)

7,590

(95)

137,150

(111)

 175,910

(111)

1人当たり生産量

17.6

40.0

32.3

21.9

395.9

507.7

 単収

  1.35

1.14

 0.86

    0.66

    6.74

 

1990年生産量

 (指数)

9,720

(206)

23,400

(198)

13,070

(126)

10,590

(132)

208,930

(169)

265,710

(167)

1人当たり生産量

20.9

50.3

28.1

22.8

449.4

571.5 

 単収

 1.65

     1.19

    0.73

    0.67

    7.73

 

2000年生産量

 (指数)

11,600

(246)

27,090

(230)

18,220

(176)

13,230

(165)

312,900

(252)

383,040

(241)

1人当たり生産量

19.1

44.6

23.0

21.8

515.0

623.5 

 単収

1.66

     1.28

    0.83

    0.66

8.28

 

注1)   サブサハラアフリカは、南アを含む48ヶ国

注2)   いも類は、キャッサバ、ヤム、馬鈴薯、サツマイモ、その他塊茎作物の合計である。

注3)   生産量:3年平均:千トン

注4)   1人当たり生産量:キログラム

注5)   単収:t/ha

注6)   主要穀物の1人当り生産量の停滞をいも類の生産増でカバーしている。

出典:FAOSTAT AGRICULTURE DATA

2.アフリカ農業支援必要額の算定事例

 (1)

NEPAD ACTION PLAN(2002年7月)
2002年から2015年までの14年間に必要なアフリカ農業開発資金を
2513億(年間$179億)と算定

 (2)

FAOアフリカ農業開発計画(2002年5月)
2015年ミレニアム目標達成に必要な資金を$2400億(年$172億)と算定

3.DAC主要国の二国間ODA(世界)中の農業の割合(1999年)

  日本 7.6% 米国 2.3% 英国 9.4% 仏 5.7% 独 3.9%
  伊 2.9% 加 2.6% 豪 14.3% スウェーデン 3.1% DAC平均 5.5%
  (注)食糧援助を除く。

 
 
提言2 ネリカ米等による農業生産の振興

 (1)

サブサハラ・アフリカにおいては、近年米の消費量の拡大に伴って輸入量が急増し、2000年には6,600千トンに達している。域内生産量は11,600千トンにまで増大しているが、米の需要に見合うようさらに生産を拡大することが課題となっている。

 (2)

我が国などの財政支援をえてWARDA(西アフリカ稲開発協会)が育成した陸稲ネリカ品種群は、多収性、耐病性、早熟性などの特性を備えており、アフリカ稲作において大きな割合を占める陸稲栽培に新たな可能性を与えるものである(陸稲栽培面積 190万ha)。

 (3)

ネリカ品種群普及のため、西アフリカ諸国17ヶ国を対象とする普及計画African Rice Initiative(ARI)が2002年3月に提案されており、またFAOもガーナとシエラレオーネの2ヶ国で普及を行おうとしている。

 (4)

ネリカ品種群普及のための課題は、第一に所定の品質を有する種子を十分な数量提供できる体制を整備すること、第二にネリカ品種群の品種特性や地域の土地条件に合致した栽培基準を作成し、その基準に沿った栽培方法を農民へ定着させることである。
稲の研究と普及に長い歴史を持つ我が国は、これらの課題に積極的に取り組む事が期待されている。

 (5)

多収性などの特性をもつネリカ品種群の普及に際しては、その栽培面積の拡大が予想されるところであるが、焼畑面積を可及的に拡大させないようにするために、マメ科植物や有機質肥料の利用、さらには畜産の導入など多面的な方法により地力の保全に努める必要がある。

 (6)

また、ネリカ品種群の普及に際しては、アフリカ農村住民が主食としているトウモロコシ、ミレット、ソルガムなどの畑作物がそれぞれ在来の栽培地域に対応した作付体系の下に栽培されていると考えられるので、これら在来技術との調和を図りつつ、地域に適合した栽培体系を検討する必要がある。この場合、IITA(国際熱帯農業研究所)などの国際農業研究機関とも連携して、ファーミングシステムなどの研究成果を活用することも重要である
  

〈参考事項〉

 1.サブサハラ・アフリカの米の輸出入状況

輸入数量

輸入金額

輸出数量

輸出金額

1970

756

102

74

12

1980

2,404

964

18

8

1990

3,092

943

11

4

2000

6,618

1,636

59

20

     単位:輸入・輸出数量 千トン、輸入・輸出金額 百万ドル
     出典:FAOSTAT AGRICULTURE DATA

 2.ネリカ品種群

 (1)

1994年WARDA(西アフリカ稲開発協会)がアフリカ稲とアジア稲の種間交雑に成功した。
2000年現在陸稲3000系統を開発。農民参加の系統選抜により実用品種の提供を開始。これには、日本などが資金支援し、さらに、日本は研究者を派遣した。

 (2)

ネリカ品種群の特色は、耐乾燥性、高収量性、耐病性、耐雑草性、早熟性、高蛋白性にあるとされている。

 (3)

2002年3月西アフリカ17国を対象としたネリカ米普及計画African Rice Initiative(ARI)が提案され、栽培面積を2006年までに2万4千haから21万haに、年間生産量を75万トンに拡大するとしているが、未だ具体的な活動には至 っていない。

3.JIRCASの畑作物肥沃度管理技術の共同研究の要旨

ミレット、ソルガム等半乾燥熱帯アフリカ農村住民の大部分が主食としている畑作物の研究については、ICRISAT(国際半乾燥熱帯作物研究所)などCGIAR(国際農業研究協議グループ)傘下の研究機関において実施されているが、我が国のJIRCAS(国際農林水産業研究センター)では、これら畑作物栽培地帯の土壌肥沃度管理手法の研究をICRISATと共同して2003年度に開始した。


  提言3 小規模潅漑農業の積極的展開

 (1)

アフリカの農業生産力の拡大を図るためには、例えば需要が急速に増大しつつある米について適地では比較的高い単収(3t以上/ha)が期待できる潅漑稲作農業を普及させることが重要である。この場合、当協会(AICAF)が過去10年間にわたって実施したサブサハラ・アフリカ地域の稲作を中心とした農業開発調査事業の経験等によれば、当該地域に広範囲に賦存する内陸小低地(谷地田)(現在灌漑面積165万ha,灌漑適地1,100万ha)において、農民が比較的容易に管理できる小規模潅漑を対象に普及することが効果的であると考えられる。
なお、WFP(世界食糧計画)が1999年から日本政府の支援によりコートジボアールで実施したFood for Work事業では、普及組織との連携により、農民自身による灌漑水路の補修、水田の造成等が行なわれ、低コストによる水田開発とあわせて農民の参加意識が向上したと言われている。

(2)

灌漑農業の持続的な発展のためには、農民の積極的な参加意欲を助長するような社会経済的なシステムの存在が必要であり、貯水池の整備、肥料など生産資材の円滑な供給、そのための金融、普及組織、道路などのインフラの整備が必要になる。当事国は、この点を十分認識して、農業施策を講ずるとともに、各ドナー国も相互に連携を取って灌漑農業協力の効率的、効果的な実施のために努力すべきである。

 (3)

また、アフリカにおける稲作農業普及の拠点として「アフリカ稲作農業普及センター(仮称) 」を我が国の援助によって設立することを提案する。センターには、我が国の稲作専門家集団を配置するとともに、WARDAの研究成果を活用して、アフリカ現地研究者、普及員の応援を得て、稲作の栽培試験と普及にあたる。
このセンターは、稲作に関する周辺諸国の共同利用施設として、アフリカの自然や社会的環境に適合したアフリカ型稲作の栽培試験と普及・研修を行うことを基本的な役割とすることが考えられる。
  

        〈 〈参考事項〉

1.AICAFのアフリカ持続的農業開発事業の概要

コートジボアール(1992−1994)、 タンザニア( 1995−1997)、 ザンビア( 1995−1997)、 マラウイ( 1998−2000)の4ヶ国において、谷池田など内陸低湿地を含む調査地区を対象国ごとに1カ所選定し、小規模水田稲作農業の開発計画を策定した。その際、農民の参加を得て、施肥試験、灌漑施設建設、農民組織化等の実証試験を行った。

2.WFPのコートジボアールでの事業概要

1999年から2002年末までWFPが日本の信託基金を得てコートジボアール国北部4州で低湿地の零細稲作農家約10,000戸を対象として、農民の労働力提供による小規模ダム、貯水池の復元、灌漑水路の造成補修、農地整備(1,700ha目標)を実施した。1日の労働提供に対してコメ3kgを提供するというFood for Workにより、結果として農民参加による手作りの灌漑農業の基盤整備が行われた。

3.JICAのアフリカ灌漑農業協力の概要

JICA(国際協力事業団)によるアフリカ灌漑農業の協力案件としては、1974年から開始されたタンザニア・キリマンジャロ農業開発計画(1974‐1993)を初めとして、エジプト米作機械化計画(1981−1998)、ナイジェリア・ローア・アナンブラ灌漑稲作計画(1989−1993)、ケニア・ムエア灌漑農業開発計画(1991−1998)、コートジボワール灌漑稲作機械訓練計画(1992−1997)、タンザニア・キリマンジャロ農業技術者訓練センター計画(1994―2006)、ガーナ灌漑小規模農業振興計画(1997−2004)などがある。


 提言4 アフリカの伝統的食料作物への技術革新の導入

 (1)

アフリカの農業生産を年率2%強の人口増加に対応して拡大させるためには、栽培面積の拡大がこれまでのようなテンポで可能であるか問題であるので、品種改良や栽培方法の改善による「単収の増加」により生産を増加させることが必要である。そのためには、アフリカの伝統的な食料作物であるトウモロコシ、ミレット、ソルガム、キャッサバ、マメ類などの作物についても、優良品種の育成、栽培技術の改良などにより、可能な限りその増収能力を高めることが必要である。これらの作目の技術革新は、CGIAR傘下の各研究機関(IITA、ICRISAT,CIAT(国際熱帯農業研究センター)など)が中心となって実施しているが、その研究を一層加速するため、先進国の研究勢力を含めた国際的な支援体制を整備する必要がある。

 (2)

例え例えば、優良品種の育成については、各作物ごとに、国際的な育種研究動向を把握して、育種研究者、各ドナー国政府、世銀などの国際開発機関に情報提供を行う。そして、必要があれば、研究体制の見直しなどを提言する。このような機能は、CGIARなどの国際機関が担うべきであるが、ドナー国である我が国がこのような役割を支援し、さらにはその機能の一部を受け持つことが考えられる。
  

〈参考事項〉

ドナー国の個別の研究支援として、我が国は、ネリカ米の研究に対して、WARDAにトラストファンドを提供したほか、JIRCASがシロイヌナズナ及びアジアイネから単離した環境ストレス耐性遺伝子を作物に導入するための国際共同研究が進行中である。

  

 
  提言5 農村開発協力の推進

 (1)

農村開発協力は、農業生産の拡大のみならず、地域貧困者の削減のために、水、医療、教育、道路、さらには砂漠化の防止等農村生活のインフラ整備を行うこととあわせて、地域として雇用、所得を提供しうる農業関連の経済活動を育成することが課題である。後者については、手近な資源を活用した地場市場向け商品例えば野菜、小家畜等が考えられる。
このような課題に対応するためには、何よりも地域住民の意向に沿った内容の事業でなければならないし、またドナー国が相互に充分な連携をもって実施する必要がある。また、この分野は、すでに内外のNGOが各地で実績を上げており、今後とも我が国のNGOに期待されているところである。

 (2)

とくに農業に関連した事例を挙げれば、水については、農業用水とともに生活用水の供給を含めた小規模な水資源開発プロジェクトの有効性について検討する必要がある。
初等教育については、学校給食を教育の普及手段に利用する事が試みられており、教育の普及のために様々な可能性を検討する必要がある。
  

 

 
  提言6 アフリカ農業農村協力に対する民間支援組織等の整備

 (1)

近年アフリカの多くの国では世銀などの構造調整政策を受け入れ、農業補助政策からの撤退等が行われており、各国政府は、適切な農業振興政策を実施することが困難となっているように見受けられる。このような現状にかんがみ、今後数年間にわたり主要なアフリカ諸国の農業政策担当者を我が国に一定期間受け入れて、アジア諸国の政策担当者、研究者の協力を得ながら、農業部門が経済発展の基礎となったアジア型経済発展のプロセスについて研修を行うことは、現地政府の Capacity Building に貢献するところが大きい。このような研修を実質的にサポートできる組織の整備が必要である。

 (2)

また、我が国とアフリカ各国のハイレベルの農業政策担当者が相互に交流が出来るようなネットワークを作ることは、農業協力の円滑な推進のために有益である。このため、我が国の側からハイレベルの農政担当経験者ないし学識経験者をアドバイザーとして現地政府に派遣する事が考えられるが、これらのアドバイザーに各国ごとの農業政策の現状、我が国としての対処方針の立案などのサポート業務を行いうる支援組織が必要である。

 (3)

アフリカ農業農村協力が必要とする多面的な人材の需要に対応するため、AICAFなどの団体が実施している国際協力専門要員登録制度を連携拡充して、国、都道府県の農業関係者、大学、民間など広く要員のリストを整備する必要がある。

 (4)

アフリカ農業農村協力において、より多くのNGOの活動ができるよう、地域情報の提供、現地NGOや他ドナー国NGOとの交流、技術研修などの条件整備を図る必要がある。

 (5)

アフリカ農業農村協力に対する国民の理解と支援を得るため、関係機関、NGO、民間団体と提携して、シンポジウムの開催、募金活動など、PR活動を行うことも有意義である。

 (6)

以上のような様々な役割を担当させるために、国内の民間組織を整備する事が必要である。
  

〈参考事項〉 アフリカで農業・農村協力を行っている我が国NGOの例 

  ・ICA文化事業協会(コートジボアール、ケニア、ザンビア  農業振興)
 
 ・カラ西アフリカ農村自立協会(マリ 野菜栽培、生活改善)
  ・国際開発フロンティア機構(ガーナ 持続的営農システム)
   ・笹川アフリカ協会 (ギニア、ガーナなど10カ国 トウモロコシ、ソルガム、米)
  ・サパ西アフリカの人達を支援する会(ギニア 有機肥料)
  ・地球緑化の会(タンザニア  シロアリ活用農法)
  ・緑のサヘル(ブルキナファソ、チャド 野菜、改良かまど、植林)

                                           以 上


  提言 アフリカ農業農村開発協力検討委員会名簿

 

浅沼 修一   国際農林水産業研究センター 研究企画科長

石井 龍一   日本大学 教授

板垣 啓四郎  東京農業大学 教授

内宮 博文   東京大学 教授

海田 能宏   京都大学 名誉教授

勝俣  誠   明治学院大学 教授

紙谷  貢   食料・農業政策研究センター 理事長

高瀬 国雄   国際開発センター 顧問

高村 泰雄   京都大学 名誉教授

西牧 隆壯   国際協力事業団広域調査員(アフリカ・農業)

平野 克己   日本貿易振興会・アジア経済研究所 主任研究員

廣瀬 昌平   前 日本大学 教授

的場 泰信   海外農業開発コンサルタンツ協会 専務理事

若月 利之   島根大学 教授