<オリジナル稿>
本調査は農林水産省からの委託によりAICAFが実施したものである。1992年度より3年度ずつ3回、計4カ国([1])を対象に実施され、2001年3月に終了した。筆者は後半6年、3カ国における調査に参加した。異なる国や地域の、さまざまな環境の下での調査は試行錯誤の連続だったが、それなりの成果も上げられたと感じている。
ここに9年間の調査を総括し、得られた経験や教訓を伝えることで、今後アフリカ地域で農業開発に係る調査や計画策定、事業実施に携わる方々の一助となることを願うものである。
本稿では、まずアフリカの食糧事情と課題及びアフリカ農業開発援助の現状を簡単に説明し、次に本調査事業の目的と仕組み、調査対象国の選定、調査の方法について述べる。その後、対象地域の自然条件の特徴について概説し、調査時点における各国対象地域の状況、認識された問題点とそれを基に立案した開発計画、計画に基づいてと実施した実証試験及び住民参加の度合いについて述べ、これらを総括して今後のアフリカ農業開発に対しての若干の提言を行うこととする。
2.アフリカ食料需給バランスの現状と課題
サハラ以南(以下、サブサハラと言う)の国々では、1960年代から1970年代の独立後、農業生産増加は年率平均2%未満で推移する一方、同期間の人口増加率が年平均2.7%であった結果、穀物の自給率は低下し、深刻な食料不足に陥った。
近年になっても、サブサハラ諸国の食糧需給バランスは未だに改善されておらず、食料増産は多くの国々において政策の最優先課題の一つとなっている。
また、熱帯アフリカの森林面積は年約370万haずつ減少していると言われているが、その70%は急激な人口増加や貧困に起因する過度の焼畑移動耕作が原因とされている。これの解決のためには、持続的で、かつ生産力の高い定着農業の確立・普及が地球環境保全の観点からも喫緊の課題となっている。
3.アフリカ農業開発援助の現状
独立後のアフリカ諸国に対する開発協力は、主に旧宗主国を始めとするドナー国や、アフリカ開発銀行、世界銀行等、国際機関により行われてきた。この中で世界銀行は農業分野において、経済開発の一翼を担うための輸出用商品作物生産振興(1960年代)、大規模灌漑開発に代表される総合農村開発型インフラ整備(1970年代)、債務返済繰延や援助の前提として行財政改革を条件として課す大胆な構造調整計画(Structural
Adjustment Program: SAP、1980年代)、を進めた。しかしながら、いずれの事業もアフリカ諸国の経済を改善するまでには至らなかった。その後世界銀行は貧困削減を途上国開発の最重要課題とし、1999年には、重債務貧困国及び全てのIDA(第2世銀)融資対象国に対し、融資の前提として貧困削減戦略ペーパー(Poverty
Reduction Strategy Paper: PRSP)の作成を要請した。
国連食糧農業機関(Food
and Agriculture Organization of the United Nations: FAO)は1994年6月の評議委員会第106会期において、食料安全保障特別プログラム(Special
Programme for Food Security: SPFS)の実施を全会一致で承認し、同年後半に開始した。
SPFSの主な目的は、低所得食料不足国(Low-Income
Food-Deficit Countries)における食料安全保障を、食料生産量増加・生産性向上を通じて改善することにある。SPFSは2つのフェーズからなっており、フェーズ1では限られた地域を対象として、農民や地元住民に農業生産性向上に係る訓練を施すと共に、農機具及び種子を供与する。これによって活動の経験を重ね、成功した活動を他の地域に反復し、また同じ地域で他の活動を行うことにより、活動範囲を拡大し、活動要素を広げる。フェーズ2ではフェーズ1で達成した成功アプローチを大規模に反復させることにしているが、これには食料安全保障プログラム及び農業政策改正、農業投資計画及び融資プロジェクトのフィージビリティ調査が含まれている。
・日本政府による対アフリカ援助のイニシアティブ
1997年6月のデンバーサミットにおいて、日本政府はアフリカについて「開発のための新たなグローバル・パートナーシップ」の具体化に向け、人造り協力、「南南協力に関する国際会議」構想、第2回アフリカ開発会議、民活インフラ、「開発に関する沖縄会議」等、具体的イニシアティブを提唱した。これに基づき、1998年10月に東京で第2回アフリカ開発会議(TICAD
II)が開催され、「21世紀に向けたアフリカ開発東京行動計画」が採択された。この行動計画では、「貧困削減と世界経済への統合」を主題に、「アフリカの主体性(オーナーシップ)とグローバル・パートナーシップ」という基本原則に基づき、3つのアプローチ(域外パートナー間の協調強化、地域的な協力と統合、及び南南協力)と3つの横断的テーマ(キャパシティ・ビルディング、ジェンダーの主流化、及び環境の管理)をあげており、これを受けて分野ごとの行動計画が示された。
この中で、日本政府は「アフリカ支援プログラム」を表明し、今後も継続してアフリカ支援にイニシアティブをとっていく立場を示している。農業開発における支援としては、「アフリカにおける稲作振興のための援助」とし、具体的には@象牙海岸を基点に適切な技術の試験・デモンストレーションなどの技術移転を実施、A西アフリカ地域のコメの増産;アジアイネとアフリカイネとの交配による新品種の開発支援、B東南部アフリカにおけるアジア型稲作普及の支援;専門家の派遣、を明示している。
その後、第3回アフリカ開発会議(TICAD
III)の開催(2003年後半)が発表され、その準備のための閣僚会合が2001年12月に開かれた。
・日本政府による対アフリカ農業援助の取り組み
日本政府による対アフリカ援助は、1980年代においては灌漑施設、穀物倉庫建設を始めとする基盤整備、食料援助、及び食料増産援助等、当該国の食料安全保障に資する援助が主であったが、1990年以降はサブサハラ地域の作物生産性(特に灌漑稲作)向上、農村開発、環境保全・修復等のニーズに応えるべく、多様化してきている。灌漑稲作に関してはその技術が比較的広域に適用可能であることから、地域ごとに拠点をおいて技術開発や普及に努めており、他方、農村開発や環境保全・修復に係る事業計画においては受益者である地元住民の主体的役割を推進するために、村落のような小さな単位で地元住民参加による計画作りを進めると共に、計画の妥当性を確認するための実証試験を実施するアプローチが多く採られるようになってきている。後者については貧困軽減、持続的開発が目標となっている。
また、地域ごとに核となる協力課題について、FAO、西アフリカ稲開発協会(West
Africa Rice Development Association: WARDA)、国際肥料開発センター(International
Fertilizer Development Center: IFDC)等の国際機関との連携が図られており、援助の相乗効果が発揮されることが期待されている。
4.調査の目的と方法
〔調査の目的〕
本調査の目的として以下が掲げられていた。
「アフリカにおける食料増産と過度の焼畑移動耕作による熱帯林の減少、砂漠化の進行等の防止に資する観点に立って、現地住民参加による、持続可能でかつ生産力の高い小規模な農業(小規模水田稲作等)の開発、普及等の事業実施計画の策定、及びその計画の実施のためのNGO等を活用した事業実施体制のあり方について調査検討を行うものとする。」
また、本調査が開始されるに至った背景には、1988年〜1991年にAICAFがアフリカ12カ国で実施した「食料増産開発計画に関する調査」及び1990年〜1993年にかけて国際開発センターがアジア、アフリカ、中南米の3地域を対象に行った「農業資源管理計画基礎調査」がある。前者では「アフリカの多くの国に分布するも利用率が低い内陸低湿地(国によりValley
Bottoms, Bas-fonds, Fadama, Mbuga, Dambo等、名称が異なる)の潜在的農業生産力に注目し、これの効率的な水田利用を図ることが、アフリカ食料問題解決の有力な手段である」との提言がなされ、また後者においては「アフリカにおける焼畑対策として、農民参加の小規模な灌漑稲作農業が重要である」との提言がなされた。
以上2つの調査の提言を受けて、本調査では谷地田を含む内陸低湿地を対象とし、稲作を含む持続的な農業開発計画を策定することにより、アフリカ農業開発の計画策定や実施にたずさわる人々に一種の開発モデルを提示することを目的とした。なお、ここでは持続的開発を、経済的、社会的及び技術的観点から地元住民(受益者)に対して正の効果をもたらし、かつ、環境の劣化をもたらさない、地元住民により適正に維持されうる開発であると定義した。したがって、調査計画は地元住民の参加が前提であり、開発規模は100haを超えない小規模なものとなった。
〔調査対象国及び調査地域〕
調査対象国及び調査年度は以下のとおりである(図1参照)。
コートジボアール(1992〜1994年度)
タンザニア及びザンビア(1995〜1997年度)
マラウィ(1998〜2000年度)、
なお、タンザニアに関しては、実証調査後のフォローアップが特に必要であるという調査団の提言を受け、調査終了後2年間アフタケア及びモニタリング期間を設けた。
対象国の選定にあたっては、国内において入手可能な資料に基づき、当該国のコメ生産量、コメ需要動向、水稲栽培環境、内陸低湿地の存在、政府のコメ生産に関する政策、国際研究機関やJICAの実施プロジェクト等を検討した。
調査対象地区の選定は、国内において入手可能な資料及び情報に基づき、複数の候補地を予備的に選定した。予備選定する地域は調査の目的に照らし、内陸低湿地が存在し、そこで農民が稲作を含む農業を営んでいる地域とした。そして第1回目の現地調査で、当該国政府機関や援助機関、JICA現地事務所、日本人専門家との協議、及び現場踏査を通じて、最終的に調査対象地区を選定した。
〔調査内容〕
調査は1カ国あたり3年度にわたり、国内における関係資料の収集分析、国内検討作業及び海外現地調査により実施した。国内においては学識経験者や有識者からなる検討委員会が設けられ、調査の進め方及び報告書の内容について、検討が行われた。
各年次調査の内容は概略以下のとおりである。
(1)第1年次調査:対象地域選定及び現状調査
調査対象国を選定し、現地調査及び既存資料の解析から、事業計画策定のためのモデル地区(調査対象地区)の選定を行い、同地域の社会・経済、農業、土地利用、水利、農家の生活実態、営農形態、農業生産技術、農業技術普及指導体制等の現況調査を実施し、地区の開発ポテンシャル及び制約条件を把握するとともに、調査対象地区農民意向等を踏まえ、開発戦略を策定する。
(2)第2年次調査:開発計画(案)策定及び実証調査実施
補足調査を実施し、その結果及び1年次調査結果を基に、農業生産基盤整備、水稲等作物生産、農業技術普及・指導、適正技術開発等の事業実施計画(案)を策定すると共に、データ収集、計画案の妥当性検討を目的として実証試験を行う。
(3)第3年次調査:開発計画確定及び事業計画の評価、事業実施・運営体制に関する提言
実証試験を継続するとともに試験結果を整理し、必要に応じて事業計画(案)を修正し、最終的な事業実施計画を策定する。さらに、事業計画の評価を実施するとともに、将来の事業実施並びに実施運営体制について提言を行う。
〔調査方法〕
調査目的で述べたように、現地調査は地元住民の参加を前提として行ったが、住民参加型調査について確立された手法があったわけではなく、地元住民をどのような形で、どの程度参加させるかは、調査団の判断に委ねられた。
一方、本調査の調査手法には、いくつかのユニークな点があるので、ここで紹介したい。
(1)専門家投入量が小さく、調査期間が長い
1カ国あたり3年間の調査期間が割り当てられているが、現地調査は毎年2回、各調査期間は実質2週間程度であり、各回に派遣される団員は最大で5名である。国内作業を含めた各年の専門家投入量は最大でも15人・月であり、調査期間全体(3年間)の投入量は約40人・月である。このように要員投入量に比して調査期間が長く、また1つの農村を4〜5回にわたり訪問する一方、1回の現地調査期間が短い。これにより、@地元住民と接触する回数が多く、また長期間にわたるため、信頼関係を築きやすい、A地元住民の調査団(ドナー)への過度の依存が避けられ住民自らの開発インセンティブが高まりやすい、B実証試験や協議により、計画の軌道修正が可能である、及びC地元住民や相手国関係機関の参加度が調査の成否を大きく左右する、こととなった。
(2)実証調査の実施
調査2年目の初期に立案する事業計画案の妥当性(または実現可能性)を検討するため、計画案の中からテーマを抽出し、実証試験を実施した。実証試験の内容は、調査団が相手国関係機関や地元住民との協議を通じて決定したが、一般的な作物に対する施肥試験ばかりでなく、小規模の灌漑施設建設、地下水開発(電気探査を含む)、農民の組織化及び訓練、野生動物被害防止対策も含むこととした。実証試験の規模は、調査団が使用できる現地調査費の範囲内であり、1調査対象地区当たり最大で200万円程度であった。
(3)徹底した現地主義と柔軟性の確保
本調査は、JICAの開発調査のように事前調査を経て相手国政府と日本政府との間で調査期間、内容等、枠組みを決めた上で本格調査を実施するのではなく、調査目的及び調査期間が設定された以外、調査地域の選定、調査方針、内容の決定等については、現地調査団の裁量に委ねられた。このように、調査遂行上重要な決定のほとんどが現地でなされるため、各調査段階で参加する調査団の構成、調査期間は柔軟性を持たせた。例えば、第1回現地調査では相手国政府との協議及び調査対象地域の選定が主たる業務なので、総括、農業土木及び業務調整担当の2名が約3週間、第2回調査は対象地域の現状調査であるため、総括/作物/営農、農業土木、土壌/作物栄養、社会経済(組織・制度)及び業務調整の5名が約1カ月現地に滞在し、効率的、効果的調査を可能とした。
5. 調査対象地域の自然環境
各国の調査対象地域における自然環境を表1に示した。より詳細な説明を以下に記す。
表1 各国調査対象地域の自然環境の概要
コートジボアール
Bouake県Djebonoua郡Behoukro,
Djebonoua, Blediの3ヵ村
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タンザニア
Kilimanjaro州Moshi郡、Chekereni
Weruweru村
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ザンビア
Northern
州、Kasama県、Lazalo村及びMutaremukulu村
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マラウィ
Salima県、Bamdawe村
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標高約330m。花崗岩の風化最終産物を母材とする砂質ないし砂壌土。畑地(Paleustults);傾斜地(Ustropepts);低地(Fluvaquents)。雨季(4月〜10月)及び乾季(11月〜3月);年平均降雨量1,100〜1,200mm、降雨日数約80日。平均気温24.7℃(9月)〜28.3℃(3月)。自然植生はGuinea
savanna
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標高約800m;キリマンジャロ山山麓、火山灰起源のMollisols(推定)、下層土のナトリウム含量高い;年平均降雨量約700mm、雨季(10月〜5月、10月から12月の小雨期及び3月〜5月の大雨季)及び乾季(6月〜9月);6月から8月は冷涼;キリマンジャロ山からの伏流水が多数湧出。メルー山水系の湧水ナトリウム含量高い
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標高約1,300m、地質的に非常に古いコンゴ剛塊上;砂質で低肥沃度土壌(Typic
Kandiustult,及び Oxic Paleustult);.年平均気温20.2℃、7月最低、10月最高。年降雨量1,000mm以上12月〜3月の集中。自然植生はMiombo林。Chambanshiダンボの植生は草原。
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標高約700m、マラウィ湖岸沖積地帯。低位部は湛水と乾燥を繰り返し、有機物多い黒色土壌(Vertisolと推定)高肥沃度、高位部は砂壌土で低肥沃度;年平均気温25℃、1月最高(28℃)、7月最低(22℃)。年降雨量約1,200mm。ダンボ植生は草地。
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試験/処理
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収量(t/ha)
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収量の範囲
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第1回圃場試験(品種Bouake189及びITA326)
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無肥料
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2.7
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1.1〜3.4
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化学肥料施用
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4.8
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1.6〜6.9
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(N:P2O5:K2O=76:31:31
kg/ha)
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第2回圃場試験(品種Bouake186)
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無肥料
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2.8
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2.0〜3.4
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化学肥料施用
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4.7
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2.8*〜6.5
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(N:P2O5:K2O=66:36:36及び66:72:36kg/ha)
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注:*水不足によって雑草が繁茂した水田での収量は1.4t/haに過ぎなかった。収量は籾ベース。
化学肥料の施用によって平均値での増収があったことは認められる。しかし、施用区における収量のばらつきは著しく大きい。これは試験実施の低湿地内において、高収となりうる水田とそうではない水田が混在していると考えられる。第1回試験において低収量水田の有効態燐酸(P2O5)含有率が低かったため、第2回試験ではP2O5倍量区を設けたが、標準区平均4.5t/ha、倍量区5.3t/haと、その増収効果は必ずしも高くはなかった。この結果から、低収の原因を燐酸欠乏に求めることはできない。すなわち、三大要素以外に収量を規定する土壌要因が存在する可能性が示唆される。
気候は、ギニアサバンナ地帯に属している。乾季と雨季が明瞭に分かれており、雨季は4月〜10月、乾季が11月〜3月である。年平均降雨量は約1,100mmで、このうち85%近くが雨季に集中している。年平均気温は摂氏24.3度〜28.3度であり、乾季の終わりの2月から3月が最も暑い。日照時間は乾季である1月及び2月が一日あたり平均7.7時間であるが、雨季の8月には一日あたり平均わずか2.7時間と短くなる。年平均では一日あたり5.6時間である。
5−2 タンザニア
Kilimanjaro火山南麓に位置するKilimanjaro州の州都Moshi市の南西約5kmにあるChekereni
Weruweru村にある低湿地(Mbuga)が対象であった。標高は約800mである。Kililmanjaro火山の山麓上にあり、全体傾斜は調査地域で約1%強程度である。この低湿地には数カ所に湧水が認められ、雨季明けには水量が増すが、合計してもその量は極めて小さい。一方、低湿地に広がる約20haの水田への主たる灌漑水源であるKiladeda川が、水田の約200m西を山麓全体傾斜に沿って南流しているが、しばしば雨季増水時に氾濫し、溢水が谷底面へ流れ込む。現場の状況から、この溢水により谷が開折された可能性が高い。谷地田の南北の長さは約1km、北部上流部での最大幅は約300m、全体の3/4ほど下ったところに幅20m程度のくびれがあり、下流部ではまた広がって約120mの幅がある。高地部は起伏があるため、谷底面との比高は一定しないが、北及び西側では数m、くびれの部分の東側には約10mの小丘がある。なお、水田下流部の東側約400mにはかなり水量の多いNjoro湧水がある。
土壌の母材はKilimanjaro火山からの風積性安山岩質火山灰である。降雨量の少ない乾・雨季型の半乾燥地であるため、火山灰はハロイサイト型風化をし、そのため生成された土壌は肥沃なPaleustollsと考えられる。この土壌の高い肥沃度は調査の一環として実施した施肥試験結果で明らかである(表3参照)。
表3 タンザニアにおける施肥試験(水稲)
試験/処理
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収量(t/ha)
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第1回施肥試験(品種:IR54)
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無肥料
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3.1
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窒素施肥(150kgN/ha)
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7.0
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第2回施肥試験(品種:IR54)
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窒素施肥(150kgN/ha)
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7.1
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窒素+燐酸施肥
(N:
P2O5=150:37.5kg/ha)
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7.5
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窒素+燐酸+加里施肥
(N:
P2O5:K2O=150:37.5:37.5kg/ha)
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6.7
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注:収量は籾ベース。窒素は基肥(移植後2週間)及び追肥(出穂前2週間)に等量ずつ分施。他の要素は基肥施与。
無肥料区で3
t/haを確保し、窒素肥料のみで7t/haまで増収している。他の国における試験結果と比較しても、この地域における土壌肥沃度は圧倒的に高いことは明白である。近傍地区にて日本政府の協力により1980年代実施されたキリマンジャロ農業開発計画(KADP)においても、窒素のみの施用で10年以上、6.5t/ha以上の高収量が維持されている。
しかしながら、この地域では土壌下層にナトリウム集積層があり、水田造成時に表土処理を誤ると塩害が発生する恐れがあるので注意を要する。これについては後に述べる。
気候は雨季が12月〜5月、乾季が6月〜11月であり、年平均降雨量は600〜900mmと少ない。山体に近いほど降雨量が多くなりやすい山岳気候的特徴があり、Kilimanjaro山中腹の年降雨量は2,000mmに達する。この山体における降雨は山麓において湧水となり、調査地域周辺低湿地における作物生産を有利にしている。しかし、湧水によってはナトリウム含量の著しく高いものがあり、これによる塩害が散見されることから、水質には注意を払う必要がある。
年平均気温は21.8度〜27.3度と較差が比較的大きい。雨季に高温となり2月及び3月が最も暑い。乾季には気温が下がり、特に7月から8月にかけては最低気温が10度近くまで下がることがある。
5−3 ザンビア
首都Lusakaの北東約800kmの距離にある、北部州の州都Kasama市の北方約40kmのChambanshi川上流域に生成された低湿地(Dambo)である。標高は約1,300mである。Chambanshi川はカサマ市の東側約100kmを南西へ流れるChambeshi川の1支流であるが、水量は極めて少ない。湿地はChambanshi川の水流に沿って細長く展開し、調査地点では右岸は約200m、左岸は約50mの幅がある。低湿地は全体としてはほとんど利用されておらず、草地となっている。高地面はミオンボ林と言われるマメ科樹種(樹高10m以下)の極めて単純な林相の林地となっているが、これも川に向かって緩やかに傾斜している。草地部分のみを低湿地とすれば、川との比高差は10mを越えない。
平坦高地部の土壌を構成する1次鉱物は主として石英砂である。これにカオリン系粘土が伴い、石英は薄く鉄被膜で覆われているため土壌は赤い。土壌はKandiustults及びPaleustultsであり、共通する特徴として下層にラテライト層位が存在する。低湿地の水流に近い部分は泥炭、ミオンボ林に近い比高のやや高い部分は黒泥土的な腐植層を表土に持っている。これらの1次鉱物は石英であるものの、鉄被膜はほとんどなく、1次鉱物の色は灰色にちかい桃色である。土壌分類は砂質のFluvaquents、谷底面に近い部分はHystic
Fluvaquentsと考えられる。地質年代的に極めて古い剛塊の上に形成された土壌であるため、肥沃度は極めて低い。欠乏している養分は三大要素にとどまらず、イオウ、マグネシウム、硼素の他微量要素まで、様々である可能性がある([2])。これらは調査の一環で実施した施肥試験結果(表4参照)、現地圃場観察及び市場流通作物の観察により示唆された。
表4 ザンビアにおける施肥試験
試験/処理
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収量(t/ha)
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水稲施肥試験(品種:Xiang
Xhou)
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無S
(N:P2O5:K2O=25:50:25kg/ha)
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0.88
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S添加
(無S区にS(単体)を23
kg/ha添加)
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2.14
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トウモロコシ施肥試験(品種:GV607)
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無肥料
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0.15
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標準施肥
(N:P2O5:K2O=120:200:100
kg/ha)
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1.16
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標準施肥+S
(標準施肥区にS(単体)を23
kg/ha添加)
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1.57
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注:三要素はSを含有しない化成肥料により施用。S施用は日本薬局方イオウ単体によって行った。水稲の無S区は田面均平化作業の有無2処理の平均。S添加区は均平化を行っていない。水稲の施肥量及び栽培様式は圃場所有農民の慣行に従った。収量は水稲では籾、トウモロコシでは子実重である。
水稲、トウモロコシ共に、処理の如何にかかわらず、収量が著しく低い。これは土壌の自然肥沃度(inherent
soil fertility)の著しい低さを如実に物語っている。また、水稲、トウモロコシともにイオウの施用効果が極めて明瞭である。特に水稲では三大要素のみ施用に比べ、イオウを添加した区の収量は2.3倍に達している。いずれの土壌もイオウ欠乏土壌であることは明らかである。
さらに、周辺の各種作物及び市場で販売されている野菜類の調査から、イオウ以外にこの地域で欠乏している要素には硼素、亜鉛、マグネシウムも含まれるものと考えられる。
気候は乾季と雨季が明瞭に分かれ、11月〜4月が雨季、それ以外は乾季である。年降雨量は約1,100mmであり、その90%近くが12月〜3月に集中する。また、5月から10月にかけては有効な降雨はほとんど期待できない。気温については、年平均気温が約20度であり、月平均気温は10月が最高で23.3度、7月に最低となり、この月の平均最低気温は17度となる。
5−4 マラウィ
首都Lilongweから東北東約100kmのSalima県Bandawe村の低湿地(Dambo)である。マラウィ湖岸に近いこの低湿地は長径1km強、短径約400mである。以前は1年を通じて湛水していたが、マラウィ湖の水位が低下して湿地化したという。南端をNyungwi川が東流してマラウィ湖に注いでいる。雨季にはNyungwi川が増水し、低湿地はその氾濫によって湛水する。しかし、乾季には地下水位が低下し、土壌表面に亀裂が入るまで乾燥する。低湿地の形状は浅い皿状で、周辺との比高差は2m程度である。
土壌は砂壌土のVertisolsであり、土色は黒に近い。谷底面の土壌はかなり肥沃であるが、斜面上部はより粗粒の砂壌土となり、一般的な意味での肥沃度は低くなる。谷底面における施肥試験結果を表5に示す。
表5 マラウィにおける施肥試験
試験/処理
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収量(t/ha)
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出穂期
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無施肥
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3.2
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5/25
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40N
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4.5
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5/4
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(N:P2O5:S=40:21:4
kg/ha)
|
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60N
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4.3
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5/1
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(N:P2O5:S=60:21:4
kg/ha)
|
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注:水稲による試験。供試品種はTCG10(現地語でMtupatupa)。潜在収量約6t/ha。施肥は複合肥料及び尿素で、全量基肥として施用した。収量は籾ベース。
化学肥料施用効果は明らかであるが、無肥料の場合でも収量は比較的高い。ただし、無肥料の場合は出穂期が20日強遅れることからみて、生育遅延が発生している。これは燐酸欠乏によるものと考えられる。
気候は熱帯サバンナに属し、年降雨量は1,200mm弱でその90%が12月〜3月に集中している。また6月〜10月はほとんど降雨がない。年降雨量は最近11年間で600mm〜1,900mmの間で変動している。気温は年平均気温が約25度で、最も暑いのが1月で月平均最高気温は32度、同最低気温は24度であり、最も涼しいのは6月〜7月で月平均最高気温は27度、同最低気温は17度である。日照時間は10月が最も長く一日あたり平均10.1時間であり、1月が最も短く5.6時間である。年平均では一日あたり8.7時間である。
6.自然環境から見た調査地域のポテンシャル
(1)気候環境
調査を実施したいずれの地域も、雨季、乾季の別が明瞭であるが、雨季をもたらすのは熱帯収束帯(ITCZ)の南北移動、到来による降雨であるが、その移動は規則的ではないため、降雨の開始、終了の時期が必ずしも一定ではなく、かつ降雨量も変動しやすい。また、内陸部における上昇気流の影響で、時として著しい豪雨が発生することがある。これら降雨時期、量に関する年次変動、集中豪雨は農業生産には不利な条件とならざるを得ない。日照時間に関しては、コートジボアールにおいて、雨季の日照不足が作物生産にとってマイナス要因となると思われる。
気温に関してはいずれの地域も月平均最高気温は25〜30度付近にあり、最低気温も作物栽培期間となる雨季にはほぼ20度を越えている。したがって、雨季において気温が作物栽培の障害となる可能性はない。
一方、乾季は降雨がなく、水が作物生産制限要因であるが、日照時間も長く、東部及び南部アフリカは一般に標高が高いために乾季の最低気温は20度を割り込むため温帯作物の栽培が可能など、作物生産上有利な条件が多い。内陸低湿地は乾季においても表流水があり、地下水位が高い等、高地に比べれば水分環境的には恵まれており、比較的安価なコストで水資源の開発が容易であるという点で、作物生産ポテンシャルが高いと言えよう。
(2)土壌環境
アフリカの土壌は一般的に肥沃度が低い。このことは近年になり再認識され、1997年4月、世界銀行及び国際肥料開発センターの共催により、国際ワークショップ「アフリカにおける土壌肥沃度の改良」が開かれた。このワークショップでは、サブサハラの農業成長、農村開発及び環境保全に土壌肥沃度改良が非常に重要な役割を果たすことが認識され、土壌肥沃度改良を行うことを各国の国家行動計画に反映させることを確認した。
以下に調査対象地域の土壌環境について特に肥沃度の観点から説明する。
(i) 土壌肥沃度と低生産性
アフリカ土壌の肥沃度が低いことの理由を以下に概説する。アフリカ大陸は地質学的に非常に古く、過去数億年にわたって隆起、沈降などの変動を受けず、その間地質学的な意味でのエロージョン・サイクルが何度も繰り返されたことの結果、平坦台地の陸地となっているが、長年にわたる侵食と風化の結果、残留する土壌鉱物は風化に最も強い石英である。調査した4カ国の対象地域の内、後述するKilimanjaro火山からの降灰によって生成されたタンザニアの土壌を除き、他の土壌は全てその主体となる鉱物が石英(二酸化珪素)であった。通常の鉱物はアルミニウム、鉄及び珪素を主たる構成元素とし、このような場合、鉄に随伴して他の金属系の植物生育に必須となる元素を含有しやすい。しかし、アフリカではアルミニウムや鉄さえも溶脱された、石英が主体の土壌が卓越しており、必須元素の含有可能性が小さくなる。したがって施肥の効果が大きくなるのが一般的であり、これについては、前に示したように、各国で実施した施肥試験結果にみられるとおりである。
土壌の低肥沃度により、調査地域では様々な作物の要素欠乏症が認められたが、特筆すべきものとしてはイオウ、ホウ素、亜鉛等の欠乏が挙げられる。特にザンビアではイオウ欠乏及び微量要素欠乏症状が広範囲に発現していた。当国は1992年、IMF・世銀による自由化政策が実施され、それまで政府の一応の統制下にあった肥料輸入等に対する制限はすべて撤廃され、いかなる肥料も自由に輸入、市販されることになった。その結果、より安価なNPKのみの肥料(3)の輸入が急増した。調査最終年の1997年において、調査地域の中心都市Kasamaの唯一の肥料商、House
of Kasamaによれば、1992年よりの6年間一度もイオウ入りのNPK肥料の入荷はなかったとの証言を得ている。これが再度入荷しはじめたのは1999年からである。
AICAF調査団が実施した試験結果からみて、これによるこの期間の農民の損失は極めて大きかったことは容易に想像できる。このことは明らかに現地農民の努力の範囲外にあり、中央政府等の行政能力もまた個々の農家の発展に極めて大きな影響を与えたと言わざるを得ない。
また、土壌の肥沃度はしばしば土壌の有機物や腐植と関連して論じられることが多いが、通常腐植はアルミニウム、鉄等の金属元素と結合して安定化する。しかし、1次鉱物が石英を主体とする土壌の場合、腐植は遊離した状態のため極めて早く分解、消失してしまい、堆肥などによる腐植の蓄積効果は長期には望めない。
以上述べたことは内陸低湿地に限らず、アフリカの土壌全体について一般的に適用できる。アフリカにおける要素欠乏の地域分布については、図2にように報告されている。
作物収量改善のためには施肥を含む土壌肥沃度の改善が必須である所以であるが、残念ながら、アフリカ全体での化学肥料消費量はわずかに19kg/haにすぎない。日本の消費量287
kg/haのわずか15分の1である。
(ii) 内陸低湿地の特徴
一方、内陸低湿地の一般的形状の特徴としては、まず、高地平坦面部分が極めて広大であることが挙げられる(図3参照)。アフリカ大陸が安定大陸であることを反映して、内陸低湿地とは言え、それは構造性平坦地形の一部を占めるに過ぎない。また、上流から下流部にいたるまで、川の流れは緩やかであるため内陸低湿地は細長い浅い皿状の地形を成していることが挙げられる。皿状地形の緩やかな斜面は剥削部であるため、高地土壌の下層が露出した部分となる。さらに、最上流部の低湿地の場合、川の流れが著しくゆるやかであるため、雨季のみならず乾季に入ってもなおしばらくは滞水が続く場合があり、そのような条件下では凹地底部には泥炭土壌的な土壌が形成されることになる。
ここで、内陸低湿地においては、平坦に近い谷底部の表層土壌は、斜面に近い部分と中心部とで肥沃度が異なる可能性が高いことを指摘しておく。斜面に近い部分は斜面から崩落した母材によって形成されているはずで、土性はより粗くなっており、肥沃度は低い。一方、中心に近い部分は川によって運ばれた母材が堆積した沖積性の土壌となっているはずであるが、平坦に近い地形であることから川の流速は遅く、運ばれる母材の粒径はより細かいため、土壌の肥沃度は高くなると考えられる。このように内陸低湿地の中でも場所により肥沃度が異なる可能性があり、開発の際には肥沃度の差異について厳密な検討が必要である。また、泥炭土壌が存在する場合は、それの大きな保水力及び地下水流出に対する大きな緩衝能に鑑み、それらが乾燥により分解することがないよう、留意する必要がある。
(iii) 肥沃な火山灰土壌と塩害
さて、地質学的に古いアフリカ大陸にあって、大地溝帯地域は火山が多く、噴火に伴い地質の若返りが起こっていること、及び半乾燥地であることにより火山灰はハロイサイト型風化過程を経て土壌を生成するため、土壌は一般に肥沃である。調査対象地域の一つ、タンザニアのKilimanjaro火山南麓地域は大地溝帯地域の一部をなし、この土壌も例外ではなく非常に肥沃であり、作物収量も表3にみられるように、他の地域に比べ非常に高くなっている。しかしながら、この地域に特異的な問題として、水田作水稲に塩害(ナトリウム害)が認められたので、この理由について以下に説明する([3])。
この地域の土壌中のナトリウム濃度は下層へいくほど高くなる。水田造成において、切り土により下層土を露出させた場合、そこに生育する水稲は塩害を受けていた。また、周辺の湧水や河川水にはナトリウム濃度の高いものがあり、これらを水源として灌漑することにより塩害田が生成される場合がある。さらに、水不足により水田が湛水されない場合、露出土からの水分蒸発に伴い、土壌中或いは灌漑水に含まれるナトリウムが表層に集積することにより水稲が塩類障害を受ける場合が観察された。
この地域における土壌中及び河川或いは湧水のナトリウム濃度が高いのは、Kilimanjaro火山の西北西約100kmにあるオルドイニョ・レンガイ火山からの溶岩流出と推定された。通常の火山溶岩流、噴出火山灰の化学組成の主たる元素は珪素、アルミニウム、鉄等であるが、オルドイニョ・レンガイ火山の溶岩流にはこれらの元素はほとんど含有されておらず、代わりにナトリウム及び二酸化炭素を主体とする組成となっていることが、1960年10月の同火山の溶岩流出を契機に明らかとなった。すなわち、現在の地表を形成しているKilimanjaro火山灰の降灰以前に、炭酸ナトリウムを主体とする火山灰がこの地域に多量に降灰したと考えられ、この地域における土壌に由来する塩害、及び灌漑水に由来する塩害の両方が説明できる。このような組成の鉱物はカーボナタイトと呼ばれ、これまでに世界中で330の火山がカーボナタイトの産地であることが知られており、その約半分がアフリカにあり、さらにその大部分が大地溝帯周辺に分布している(図4参照)。したがって、カーボナタイトが発現する地域においては、土壌及び河川或いは湧水のナトリウム濃度を測定し、炭酸ナトリウムの溶解時の特殊性(pHがそれほど上昇しないこと及びEC(Electric
Conductivity:電気伝導度)が高くない)から、水質に関してはpHやECばかりでなく、SAR([4])(Sodium
Adsorption Ratio:ナトリウム吸着比)の計算を行い、しかるべき塩害対策を講じる必要がある。
7. 各国における調査結果の概要
〔地区の現況〕
対象村(Chekereni
Weruweru村)の人口は3,760人で家族数は563である。約半数の289家族が農業に従事している。村内での農業以外の職業は、仕立て、石工、自転車修理、カギ職人、ラジオ修理、理髪、髪結い、醸造等である。
家族規模は大きく、10人以上の家族が4割以上を占める。ほとんどが小学校卒業または中退と学歴は低いが、中には中学を卒業し、英語を話す農民もいる。
簡易水道(3.5km北の湧水からパイプにて導水)が引かれており、どの家庭も家から500m以内に水道の蛇口がある。小学校が一校あるが、中学校はなく、保健所や診療所もない。未電化である([5])。村内には公共の交通手段はなく、徒歩か自転車を利用している。Moshi市から村の出口までは民間のミニバスが通っている。
村の生活は概して貧しい。家は通常トタン屋根と土壁でできている。床も土である。炊事燃料はほとんどが薪である。村で最も深刻な疾病はマラリア、次いで住血吸虫、アメーバ赤痢等である。主食は伝統的なバナナ、ウガリ()が多いが、近年米作の普及によりコメを食する人口が増加している。
評議会は村の最高機関であり、下部組織として経済と開発、社会福祉及び治安に関する3つの小委員会があり、各委員会6〜7名の委員で構成される。評議会の他に女性の相互扶助組織(22名)があり、トウモロコシ製粉所の経営やビール([7])の製造・販売を行っている。
村の面積は約500haであり、ほとんどが畑地である。農家1戸あたりの平均耕作面積は約1.6haである。水田は村の中央南部にある低地に集中している。面積は約20haであり、稲作農家1戸あたりの水田耕作面積は約0.5haである。水田へは村の西側を流れるKiladeda川から取水し、主水路から11本の二次水路が分かれており、内9本が水田上流部を灌漑、以下田越しにより下流水田を灌漑している。水路は全て土水路である。灌漑については、社会福祉委員会に属する水路委員会が、河川からの取水に関しての複数村間の調整、水路からの配水計画の作成、配水監理、水路維持管理作業の指示、農民間の水争いの調停等を行っている。水路の維持は毎週1回、灌漑受益農民が集まり、水路委員会が決定した水路部分の除草、浚渫、補修を行っている。
水稲の栽培は1980年代に日本の技術協力プロジェクトとして実施されたキリマンジャロ農業開発計画(KADP)を通じて高収量品種IR54が導入されて以来、一年二作が一般的となっており、苗代、田植え、分施肥、防除等が行われている。栽培はほとんどが鍬による手作業で行われている。収穫された籾は70kg〜80kg容のサイザル麻の袋に入れられ、Moshi市から来る流通業者または商人に買い付けられる。
稲作農家のほとんどは同時に畑を耕作しており、トウモロコシ、マメ、ラッカセイを栽培している。水稲は自家消費よりも換金目的で栽培しており、水稲以外の作物はほとんどが自給用である。作物の種子はほとんどの農家が、前作収穫物を利用しているが、トウモロコシはハイブリッド種子を利用している場合が多いため、Moshi市の業者または政府流通公社から購入する。
家畜は山羊とニワトリ飼養農家が多く、次いで乳牛、羊である。ほとんどが自給目的である。ほとんどの農民は現在の生活に満足していない。その理由としては低収入、基盤整備水準の低さ、公共サービスの不十分さ、住宅事情の悪さなどを挙げている。
〔認識された問題点〕
農民は熱心に稲作を行っているが、籾収量は平均で2.5
t/ha程度であり、KADP地域における平均収量6.5
t/haに比べ、非常に低く、低収入に甘んじている。稲作における問題点として以下が認識された。
(1)
灌漑用水源のKiladeda川水量が乾季に特に不足し、作付面積が非常に限られること及び
水路の送水ロスが大きいことによる水不足
(2)
下層土を露出させる不適当な水田造成、不十分な水田均平及び水不足による塩害
(写真3:調査地域内の塩害水田(水不足は土壌塩類化を促進し、持続的コメ生産環境を悪化させる)(タンザニア))
(3)
Kiladeda川の洪水氾濫による収穫前水稲への被害
(4)
高収量品種IR54の栽培技術が未熟であること、種子の劣化が進んでいる可能性があるこ
と、及び水管理体制が不十分であること
(5)
普及員の不在、公的な農業金融制度がないこと、また道路が未整備であることなど、農業
支援システムが不十分であること
〔開発ポテンシャル〕
一方、調査地区の開発ポテンシャルとして以下の諸点を認識した。
(1)
土壌が肥沃であること
(2)
良好な水質で未利用の水資源の存在
(3)
雨季明けの6月〜8月にかけて冷涼な期間が続き、価格の高い温帯野菜の栽培が可能
(4)
実業家で県議会議員でもある村長の強いリーダーシップ
(5)
地方の中心都市Moshi市まで近距離にある立地上の有利性
(6)
KADP地区及びもう一つの日本の技術協力プロジェクト「キリマンジャロ農業技術者訓練
センター(KATC)」から近距離にあり、蓄積した普及技術にアクセスしやすい
〔開発計画〕
対象地区の多くの農民が抱えている貧困問題の解決に貢献するために、水稲生産性向上及び水田を主体とする持続的生産環境整備を目的として、以下の開発計画を立案した。
(1)
灌漑開発計画
(i) 新規水源開発灌漑用水不足を解消するため、村内に存在する湧水を新たな灌漑水源とし
て開発し、揚水灌漑により雨季15ha(補給灌漑)、乾季7haを灌漑。
水源:ンジョロ湧水
揚水量:24.5
l/sec
揚程:実揚程6.25m、全揚程23.0m
送水管延長760m、埋設深度60cm
送水管:PVCパイプ(クラスB)、口径6インチ
原動機:ディーゼル、所要動力9.1kW(12.4Hp)
(ii) 既存水路組織改修
主水路1,300mのコンクリートライニング及び9カ所の分水工を5カ所に統合し、分水操作に
よる水量損失の減少及び水管理の効率化を図る。
(iii) 水管理方式改善
(ii)における水路統合と共に以下を実施することにより水管理の合理化、効率化を目指す。 @
水田一筆調査の実施により水田耕作者及び面積を確定する、
A
二次水路毎の流量を測定する、
B 各二次水路がかりの水田面積、水路流量に応じて面積配分の配水計画を策定する、
C
水路毎に受益者間で作付け計画を立て、それに従って共同苗代をつくり、管理する。
(2)
農業開発計画
(i) 栽培技術改善
現在最も普及している品種IR54の標準栽培方法、特に苗代面積(本田の1/25)、播種量
(100g
m2)、施肥法(窒素肥料150kgN/haを移植後2週間の基肥及び出穂前2週間の追肥
を半量ずつ)について普及する。期待収量は雨季作4.5t/ha、及び乾季作5t/ha。
(ii) 新品種導入及び作期の再検討
二期作を導入する。雨季作水稲を洪水被害から防ぐために生育期間の短い品種(生育
期間120日以下)を導入し、さらに作期を再検討して、収穫期を洪水期から外すようにする。
(iii) 農業支援強化
投入財購入支援のため小規模金融を導入する。また近代稲作技術のための教育・訓練
を施す。
〔事業評価〕
・財務的内部収益率
:34%(揚水灌漑のみ)
8%(既存水路改修のみ)
19%(2つの総合)
・社会経済的影響
:コメ生産大幅増加
受益農民の所得向上
農民の連帯強化
・環境影響
:水由来疾病の増加
〔実証試験〕
(1)
新規水源開発(揚水灌漑施設建設)
開発計画に示した新規水源開発を実証試験として実施し,技術的に可能であることを示した
(2)
施肥技術向上のための試験
収量増加のための最適窒素施肥量、最適施肥時期及びカリ施肥量を検討するための施肥試験を実施し、基肥窒素施与(75kgN/ha)効果及び出穂前2週間の追肥効果(75kgN/ha)を確認した。これにより約4t/haの増収があった(無施肥区(表3参照)で4t/ha)
(写真4:実証試験圃(適性水管理及び施肥技術改善により7t/haの収量が得られる)(タンザニア))。
〔フォローアップ〕
普及員及び農民に対する、稲作に関する教育・訓練をKATCに委託して実施すると共に、農民用に農業技術普及のためのパンフレットを作成・配布した。また、実証試験にて建設した揚水灌漑施設及び水路の維持管理状況をモニターした。
フォローアップ期間終了時の調査で、聞き取りした稲作農民のコメ収量が調査開始時から平均で約80%増加(2.8t/haから5.1t/ha)した。これは、事業評価時の事業開始1年目の期待収量(3.5t/ha)をはるかに上回るばかりか、3年目以降に達成すると期待される最高収量(5t/ha)にすでに到達している。
〔調査における住民参加〕
実証試験における新規水源開発の際には、受益予定農民との度重なる話し合いにより、灌漑施設建設の前提として、農民により水利組合を設立、建設への積極的参加及び、施設の維持管理に対する責任について合意した。
農民によって設立された水利組合は、共同で灌漑水路を建設したほか、組合活動に必要な知識を身につけるため地元NGOによる研修を受講するとともに、肥料購入のため同じNGOから融資を受けるなど、自発的な活動を開始した。
実証試験における施肥試験では、農民の水田を借り、施肥量や施肥法などについて農民に直接指導しながら、技術移転を行った。
7−3 ザンビア(1995年度〜1997年度)
〔地区の現況〕
調査対象地区の内陸低湿地周辺は居住者が極めて少なく、低湿地縁辺部の台地に数戸の農家があるのみである。低湿地は現在ほとんど利用されておらず(写真5:未開発の内陸低湿地(ダンボ)(ザンビア))、1990年に入植した農民がこの土地を開墾し、水田や養魚池を建設しているほか、2農家が果樹、野菜栽培及び養魚を行っているのみである。養魚池を含んだ既開発面積はわずか1.48haである。
調査地区へ通じる台地上の道路は未舗装ではあるが、雨季でも車両で通行可能である。
生活用水は個人で掘削した井戸を利用している。地区は未電化であり、公共の輸送手段もなく、学校、診療所等もない。
農民自身によって建設された灌漑システムが3カ所にある。これらシステムはいずれも低湿地を流れる河川から取水しているが、取水工は粘土をジュート等の袋に入れた土嚢や草などで構築された、いわゆる草堰、あるいは流路に取水口を開けただけのものであり、雨季の出水によって破壊されることがしばしばである。また、水路は現地盤掘削あるいは盛り土した土水路であり、浸透や土砂堆積が多く、維持管理上問題となっている。
畑作における、伝統的焼畑のチテメネ([8])は人口圧が高まったために持続性が保たれず、放棄地が増えている。トウモロコシ生産のために開かれた常畑では、土壌の自然肥沃度が低いため、収量は一般的に著しく低く、開墾後肥沃度はさらに低下し、数年後には放棄される。これは水田においても同様である。農作業は基本的に鍬のみを用いての手作業である。肥料は高価であるとともに販売場所が遠く離れているため、入手が困難であり、施用量も非常に少ない。病害虫防除もほとんどなされていない。
農業普及は普及員の移動手段が確保されておらず、担当する地域面積が広すぎる、専門知識分野が限られている等、うまく機能していない。研究はミサンフ地域農業研究センターが主に行っている。
肥料や種子等、投入資材は都市部へ行かなければ入手できないが、ほとんどの農民は交通手段を持たないのでアクセスできない。その上、価格が高い、必要なときに在庫がない等の問題がある。
〔認識された問題点〕
土壌の自然肥沃度が低いこと及び必要とする養分を含有する肥料がないために、作物生産性が極めて低い。特にイオウ欠乏が深刻であり、マグネシウム及び硼素を含む微量要素も欠乏している可能性がある。
農家の大半を占める自給水準の小農に対する支援が立ち遅れている。現在農業金融はほとんど機能しておらず、栽培技術普及に関しては普及員の質・量共に不足している。投入財の流通に関しても農民からのアクセスが困難である。
〔開発計画〕
持続的農業を保証するため、農業生産性改善を通じての経済的自立を目的として以下の開発計画を立案した。
(1)
施肥改善計画
対象地域土壌で、特に欠乏していることが明らかとなったイオウを、施肥を通じて作物に吸収させる。現在イオウを含む肥料が流通していない([9])ため、含硫肥料の開発及びその施用方法を検討する。
(2)
農業支援制度強化計画
(
i ) 上記施肥改善のため、肥料試験を至急開始し、収量を制限している最大の欠乏要素を
特定する等、基礎情報を蓄積する。
(ii
) 大部分の農民が非常に貧しいことに鑑み、投入財購入目的に特化した短期で低利子の
小規模金融を導入する。
(iii) 自給に達していない貧困農民の食糧確保のために、低肥沃度土壌適応作物・品種や
耐乾性作物・品種の研究・普及を緊急に行う。同様に低投入最適生産の研究を実施する。
(3)
灌漑開発計画
開発面積 : 25ha(内水田11.5ha、畑13ha及び養魚池1.5ha)
灌漑水路 : 3カ所、総延長3,900m
〔事業評価〕
調査時点で含イオウ化学肥料が国内で流通していなかったため、作物収量向上による便益が期待できず、事業評価は実施しなかった。
〔実証試験〕
水稲及びトウモロコシ収量に及ぼすイオウの施肥効果試験を実施し、対象地域の土壌がイオウ欠乏であることを確認した(表4参照;写真6:水稲栽培試験におけるイオウ欠乏(著しい生育の不均一性が認められ、生育の悪いイネほど葉色は黄色に近く、典型的なイオウ欠乏症を示している)(ザンビア))。
〔調査における住民参加〕
問題点が農民レベルのものではなかったため、調査の中での住民参加は、水稲のイオウ施肥試験における低湿地水田の提供にとどまった。
7−4
マラウィ(1998年度〜2000年度)
〔地区の現況〕
調査対象地区の村(Bandawe村)は県庁所在地Salima
Bomaから約20km離れている。360家族が居住しており、モザンビークからの難民が多い。ほとんどがイスラム教徒である。
村の組織は村長の下に補佐役が4名配置され、意志決定や会議に参加する。教育委員会、開発委員会及び保健衛生委員会がある。開発予算はない。村の重要な決定が必要な場合には村長が村民会議を招集する。村民が家畜盗難予防のために自発的に警護団を組織し、夜間巡察を実施している。
住民の教育水準は低く、全く教育を受けていないか、受けていても小学校教育程度である。小学校が2校あり、うち1校は2年生までの準小学校である。就学率は20%と非常に低い。診療所が1つある。最も多い疾病はマラリア、次いで下痢、目の病気、皮膚病、住血吸虫等である。雨季は下痢及びコレラ患者が増える。
生活用水は主に井戸に依存している。地区内には14本の井戸があるが、ほとんどが掘り抜き井戸であり、衛生面に問題がある。家庭用燃料は薪である。
未電化であり、郵便局もない。首都リロングェとを結ぶ民間のバスが一日一往復走っている。
農民は通常0.5〜1エーカーの土地を耕しており、主にトウモロコシ、コメ、キャッサバを栽培している。一般にトウモロコシが最重要主食作物であり、ついでキャッサバである。コメは仲買人に売られる場合が多い。他の作物はサツマイモ、豆類及び野菜(トマト、カラシナ等)がある。
低湿地におけるコメ栽培は雨季の開始(11月〜12月)とともに行われる。作付け時期は土地の水の状態によって変わる(写真7:内陸低湿地縁辺部の雨季作(湛水状況が毎年変わるため、縁辺部では稲作とトウモロコシ作を同時に行い、危険分散を図っている)(マラウィ))。トウモロコシ及びキャッサバは雨季(12月〜2月)に畑地(低湿地より高いところ)に植え付けられる。トウモロコシ及びサツマイモは乾季(6月〜7月)に、低湿地の中でも土壌が水分を含んで湿っているところで作付けられる。掘り抜き井戸で水が入手できるところでは、小規模で野菜が栽培される。
ほとんどの作物が雨季に作付けられるため、農作業は雨季に集中する。特に1月及び2月は田畑の除草作業で最も忙しくなるが、多くの場合この時期までに前作で収穫した食料がほとんど消費されてしまうため、彼らにとって最も厳しい季節である。食料を得るために日雇いで他の農家の畑を耕したり、マラウィ湖へ漁に出かけ、現金収入を得る者もいる。
種子はコメについては前作で収穫した籾を使用するが、種子の純度が落ちたと判断した場合は購入する。最も人気が高いのはFaya14M69という香り米である。トウモロコシは在来種及びハイブリッドであるが、ハイブリッド種子は政府系流通公社または民間から購入する。
作物栽培にとって最大の問題は、地域近隣に生息するカバが夜間、農地に侵入して作物を食い荒らすことである。野生動物の被害は他にもサル、イノシシなどがある。
農業普及サービスは訓練及び訪問システムによっているが、対象地域には長年にわたり普及員が来たことがない。このため、農民は様々な農業技術サービスが受けられず、農業金融などへのアクセスの方法についても知らされていない。
調査地域の北約2kmのところに国立のリフウ稲研究所があり、品種開発及び労働節約型耕種法の研究を行っているが、研究者はわずか2名である。
〔認識された問題点〕
地域の住民の多くが農業で生計を立てているが、作物生産量は十分ではなく、自給水準ぎりぎりの生活を強いられている農民もいる。農業及び通常生活上での困難について以下にまとめる。
(1)
農業関連の問題点
(i) 低湿地における水調節の困難さ
低湿地の水位は、年次間及び季節間変動が大きい流域の降雨量に呼応して変化する
地下水位に依存し、水位の人為的調節は困難である。
(ii) 乾季における水不足
乾季の6月〜11月は降雨がほとんど期待できず、作物栽培は低湿地の一部に限定される。
(iii) 野生動物による作物の食害
未利用低湿地に生息するカバによるコメやトウモロコシの食害による作物生産量減少及び
農民に与える肉体的、精神的苦痛が大きい。
(iv) 肥料・農薬等投入資材の不足
肥料や農薬等投入資材へのアクセスが困難(販売先までの距離が遠く、価格が高いこと)。
(v) 不十分な普及サービス
長年にわたり普及員が村を訪問しなかったため、普及サービスからの隔絶している。
市場の農産物価格に関する情報が入手できない。
(2) 生活関連の問題点
(i) 食料不足
生産する作物収穫量が十分ではない。食料が不足する時期は農繁期と重なり、農作業を
さらに重労働にする。
(ii) 質・量ともに不十分な生活用水供給
生活用水源としての井戸は、雨季に泥水が入りこみ、また乾季に涸れるものが多い。
(iii) 不十分な診療所施設、備品及びスタッフ
村の診療所は医療器具、薬品とともにスタッフも不足しており、患者に十分対応できない。
(iv) 不十分な教育施設、備品及びスタッフ
小学校は教室数及び床面積が不足し、備品もほとんどない。また教員も不足している。
(v) 通信・連絡手段の欠如
村には電話回線がなく、郵便局もない。情報を入手するための手段がない。
〔開発ポテンシャル〕
様々な問題がある一方、調査地域には以下のポテンシャルがある。
(1) 地下水資源
対象地域は国内で最も地下水ポテンシャルが高い。地下水開発により生活用水が確保
され、乾季灌漑も可能となる。
(2) 肥沃な土壌
低湿地の土壌は肥沃であるため、施肥量が少なく抑えられ、生産費の抑制につながる。
(3) 温暖な気候
他の地域に比べ標高が低いため、一般に気温が高い。作付け時期をずらすことにより、
野菜、果樹類を比較的高い価格で出荷できる。
(4) 大消費地へのアクセスが容易である
首都リロングェまで約100kmの道のりで、交通手段が確保できれば約2時間で到着できる。
〔開発計画〕
対象地区農民が直面している食料不足及び貧困に対して、主に農業的手段によってその解決を図り、生活水準を向上することを目的として以下の計画を立案した。
(1)
地下水開発計画
生産増加による所得向上及び安全な水供給による生活改善を目指した地下水開発を行う。
ボアホールは3本で口径4インチ、掘削深は45m。電動水中モーターポンプにて揚水する。
灌漑面積は合計10ha。幹線水路はPVCパイプで導水し、二次水路以降は開水路とする。
(2) 食料増産・所得向上計画
雨季作物としてコメ及びトウモロコシ、乾季作物としてトウモロコシ、サツマイモ、ジャガイモの
他各種野菜を想定する。乾季野菜に関しては6月〜8月、及び8月〜11月の2回作付けを行う。
優良種子・苗、適正施肥、適期除草及び防除、灌漑により生産性を増加させる。目標収量は、
コメ4.5t/ha、トウモロコシ4t/ha等。収穫物は、コメ及びトウモロコシの余剰分は村に買い付け
に来る仲買人への販売、乾季野菜類については村内や県庁所在地、首都の市場、並びに近
隣のリゾート地区のホテル及びレストランへの販売を考える。
(3) 農民自立促進計画
地元農民の自立を支援するために、農民組織化の動機付けを行うとともに、組織活動の
ための教育訓練を実施する。また、組織の持続的活動を保証するために活動資金の調達を
図る。
(4) 農業普及強化計画
農民が必要としている技術・情報について、現地にて展示試験を行い、これを普及員監督
の下、農民が実施することを通じ、普及員と農民との絆をより強固なものとなる。
(5) カバ対策
カバの耕作地への侵入を防止するため、木杭及び有刺鉄線により防護柵を建設する。
〔事業評価〕
・財務的内部収益率
: 27%
・社会経済的影響 : - 安全な飲用水供給による疾病発生減少
- 野菜生産増加による栄養改善
- 健康状態改善による労働時間の確保
- 作物収量増加に伴う所得増加
- 新たな雇用機会の創出
・環境影響
:
-
農薬使用による生態系への悪影響及び使用農民の健康被害
(適正な使用方法の説明・指導の徹底によって回避)
〔実証試験〕
(1)
ボアホールの建設
手押しポンプ付きボアホールを4本掘削し、揚水試験結果から豊富な地下水資源の存在を確認した。
(2)
施肥試験
農民にとって経済的な施肥量を探るため、水稲について主として窒素施肥に係る試験を実施した結果、60kgN/ha、21kgP2O5
/ha及び4kgS/haの施用によって1t/ha程度の増収が期待できることが明らかとなった。
(3)
現地の資源を利用した堆肥作り
調査対象地内で入手可能な稲藁及びアゾラ([10])(水生
シダ植物)を組み合わせ、堆肥作りを行った([11])。
(4) 農民組織化
農民の組織化へのモティベーションを高める目的で、農民組織活動が活発な地域へのスタディ・ツァーを実施した。この結果、対象地区農民は組織活動の重要性、有利性を学び、村へ戻った後で5つのグループ及びそれを統合する組合を組織し、共同で作物栽培を開始した。
(写真8:農民グループによる共同圃場(農民の自助努力により乾季野菜栽培が開始された)(マラウィ))
(5)
カバ侵入防止柵建設
開発計画で示された設計で、カバ侵入防止柵を500m建設し、その有効性を確認した。
〔調査における住民参加〕
現状認識、問題点の把握、実証試験内容等、調査開始段階から、彼らとの話し合いを通じて、事実確認、合意形成を図った。
実証試験については技術的な面以外は彼らの自主性を尊重し、例えば、実施候補地を農民が選定し、スタディ・ツァーの参加者を農民達が選定するなど、調査団側からの要望はできるだけ出さないようにした。
また、実証調査の中で農民の組織化を図り、それ以後は、グループの活動を支援するよう、グループ毎の課題に対応して実証試験等調査を進めた。
その結果、5つのグループは自発的に共同耕作地を設立し、会員で資金を集め作物種子を共同購入し、栽培を開始した。グループの一つ(会員22名、うち女性18名)は、手押しポンプ付きボアホールを利用して、カラシナ、ハクサイ及びトマトを中心とした乾季の野菜栽培を約0.2ha規模で行い、MK5,600([12])(約US$100)の収益を上げるなど成果をあげている。
8. 調査の総括
〔アフリカにおける水田農業開発に関わる課題〕
以上紹介した4カ国における一連の調査を通じ、アフリカの内陸小低地における、水田を中心とした持続的な農業開発の可能性を明らかにしてきたが、以下に調査を通じて認識したいくつかの課題を記す。
(1) 低い土壌肥沃度
前項で見たように、サブサハラアフリカ地域の土壌は一般に痩せており、増収のためには施肥を必要とする。内陸小低地は上流域の土壌養分が蓄積されやすいため、周辺地域に比べれば養分環境は良好であり、畑地に比べれば無肥料でも作物生産性は高い。しかし、それにもかかわらず、ザンビアの例で見られるように、無肥料では収穫を得られないような低肥沃度土壌が存在する。また、欠乏要素は1種類には限らない。土壌肥沃度は事業の成否に大きく関わる作物収量を規定するものであるから、的確に評価する必要がある。
(2)
コメの位置づけと生産性向上
現金収入が少なく、食料の確保が難しい農民にとっては、自給作物の確保、すなわち主食作物の栽培が重要である。多くのサブサハラアフリカ諸国においてコメは主食ではない。本事業で調査した4カ国の調査地域においても主食は、コートジボアールではヤム及びキャッサバ、タンザニアではトウモロコシ及びバナナ、ザンビア及びマラウィではトウモロコシ及びキャッサバであった。
全ての調査地域において、稲作農民たちは畑地で主食作物を栽培しつつ、水田で稲作を行っている。コメは彼らにとって食用作物の一つではあるが、自給作物より換金作物としての位置づけが高い。雨季作の水稲においては他の食用作物の作期と重なることが多く、このような場合には、水稲よりも他作物の管理が優先される傾向があることから水稲の収量は低くなりがちである([13])。
このような条件の下で水稲の収量を増加させるためには、十分な労働力を確保することが重要であるが、一方で農具の改良・導入や条植えによる除草作業の容易化など、作業効率を高めることが必要である。
また、換金作物としての水稲がより積極的に栽培される条件としては、収益性の高さ、安定した市場の存在([14])、貨幣経済の浸透等があげられる。高収のための栽培技術改善及び道路整備、流通施設整備等、市場へのアクセスの確保はこの条件整備につながる。
以上のように、計画立案の際には、農民にとってのコメの位置づけは外部環境に依存し、それにより水稲の生産性が左右される側面があることも留意すべきである。
(3)
水田造成の重要性
アフリカ内陸小低地の水田では畦畔による区画が不完全で、一筆の面積が小さく、均平化していない場合が多い。これが水稲収量を低くしている原因の一つであるかも知れない。小区画水田は、調査した全ての国で観察されている。
データは示していないが、ナイジェリアにおいては、農民が実践している畦が不完全で一筆の面積が小さい水田と、畦を大きくし、一筆の面積を大きく造成した改良水田を使用し、標準施肥条件で水稲を栽培したところ、改良水田では非常に増収した。増収の理由については明らかではないが、改良水田では灌漑水とともに水田へ流れ込む粘土が、水の滞留により水田土壌表層に堆積するため、養分保持力が増加する傾向があるのに対し、従来の小区画水田では水管理は行われているにもかかわらず、粘土成分が減少する傾向が認められている。改良水田において、土壌保全効果及び土壌肥沃度増進効果が収量増加に結びついたことを示唆するものである([15])。
(4)
営農技術の低さ
上記水田造成や水管理を含め、サブサハラアフリカ農民の稲作技術は未熟な面が多く、改善の余地が多い。これには@農民の教育水準が低いこと、A農具の種類が非常に限られており全ての作業を鍬一本で行っていること、B別の項で述べるように農業普及体制が整っていない等の問題が関わっている。
例えばタンザニアで見たように、キリマンジャロ農業開発計画(KADP)地区で成功した日本式稲作技術が、その近傍の稲作地域に充分には普及されていない([16])。その結果、高収量品種は導入されているにも関わらず、生産性は低いままであるのが実情である。
また、改良技術は存在するがそれが普及しない理由として、技術適用には費用がかかり、その額が農民には手の届かないものである場合がある。収量増加のための化学肥料施用がなされないのは、流通の問題とともに、価格が(収穫物販売価格との相対的な比較において)高すぎる場合が多い。
(5)
共同水管理の不慣れ
灌漑水田において水資源を効率的に利用し、生産性を維持するためには、適正な水管理が不可欠である。このためには、稲作農民が共同で水路の維持管理、作付け計画に基づいた計画配水を行う必要があるが、調査した地域では、東南アジア一般で見られるような水を媒体とした組織活動の経験はほとんど見られなかった。タンザニアの調査地域では、定期的な水路の共同清掃は見られたが、配水に関しては計画はあるものの、機械的に一定の給水時間を設定しているのみであり、水路がかり水田の面積を考慮していない等、合理性が見あたらなかった。
(6)
農民の潜在能力
低い教育水準、低いインフラ整備率、未熟な営農技術等、様々なハンディキャップはあるものの、調査地域の農民たちは、彼らの生活改善のために最大限の努力をしている。しかし、情報やインセンティブがないために、現状の問題を打破するには至っていない。
外部からの適切な支援があれば、自発的に組織化を行い、共同作業により効率的な農業生産を行うことができることが、タンザニア、マラウィにおける調査で明らかとなっている。
彼らが開発の主役が自分たちであることを認識するためには、外部からの援助で全てを与えるのではなく、少ない投入で彼らのモティベーションを高めつつ、彼らが意志決定プロセスに積極的に参加する機会をより多く与えることが重要である。
(7)
農業支援体制の不備
小規模水田開発は、かなりの部分が農民の自助努力により達成されうるが、持続性を保つためには生産の安定・向上のための研究・普及、事業化に際しての初期投資や投入財購入のための金融、収穫物の流通経路の確保等、外部の支援体制が整備されることが重要である。
しかしながら、これらいずれの支援体制もサブサハラアフリカ諸国では十分とは言えない。政府の財政難から、調査した全ての国では普及部門はあるものの、普及員は農家を訪問するための移動手段が圧倒的に不足しており、カバーしなければならないエリアが非常に広い。また、公的金融機関から融資を受けるためには、金利が高く、担保が必要で、しかも多量の書類を準備する必要があるため、収入が低く、教育水準が低い多くの農民にはアクセスが難しい。
ザンビアの例では1980年初期の研究により、すでにイオウ欠乏土壌が広く分布していることが明らかになっていたにも関わらず、含硫肥料が数年の間、国内で全く流通していなかったことがあり、研究成果が国家の施策に反映されないという問題があったことは既述のとおりである。
〔今後の持続的農業開発に向けて〕
上記課題を踏まえ、今後のサブサハラアフリカ地域の内陸低湿地における水田を含めた持続的農業開発を進めていく際のポイントについて以下に提言を行う。
(1)
農業開発から参加型農村開発へ
農業は農民の生活の一部であり、他の活動と密接な関係にある。しばしば農業の問題の根源が他の分野の問題に起因しているため、調査時には農業のみならず、経済、社会、環境を含む生活全般に関わる総合的な調査を、地元住民の参加を得て実施するとともに、問題点や課題を広く整理する必要がある([17]。
また、それに基づく事業計画は住民とともに策定し、その内容は農業に関わるものにとどまらず、社会、制度的対策も含める。すなわち農業開発というよりは、農村開発的発想を持つことが重要である。
(2)
土壌肥沃度の把握と肥沃度改善策の提示
既に折に触れてきたが、アフリカの土壌肥沃度が一般に非常に低いことが、アフリカの食料生産を大きく制限していることを認識すべきである。
しかし、土壌肥沃度は施肥や土壌改良によって改善が可能である。
生産性を規定している土壌の欠乏要素を明らかにするとともに、適正な肥料開発や施肥技術、適正作物選択、植生対策等、土壌肥沃度改善策を提示することが重要である。対策は、農民レベルまで改善策を普及させる必要がある([18])。
開発の優先度は、投資の効率性の観点から見れば、当然土壌肥沃度の高い地域(開発ポテンシャルの高い地域)に置くべきである([19])が、近年世界銀行を中心に多くの援助機関・国で提唱している開発課題である貧困軽減を重視するならば必ずしもそうはならないかも知れない。しかし、土壌肥沃度が低い地域ではcarrying
capacity(環境収容力)が小さいため、一般に人口密度が低く、したがって社会基盤も整備されていない([20])。そのような地域において農業開発という手段で貧困軽減を目指すためには、多額の費用と長期間にわたる介入が必要であることを予め認識する必要があろう([21])。また、長期的視野に立った段階的開発も考慮すべきであろう。([22])
(3)
小規模水資源開発の推進
施肥により水稲収量を向上させるためには、安定した栽培環境が必要である。降雨量や降雨時期が大きく変動するサブサハラアフリカ地域においては、未利用または十分利用されていない水資源を開発し、安定的な水供給を保証する灌漑施設を建設することが必要である。
灌漑施設は、政府の財政状況や農民の技術水準に鑑み、過剰投資は避け、できる限り受益者が維持管理できる水準とし、複雑な水管理を必要とする仕組みは避ける。規模は開発可能な水資源量にもよるが、単位としては概ね100haを越えないなものとする。
(4)
営農改善
水田農業の経験が浅い、あるいは水稲栽培があまり重視されていないアフリカでは、本来稲が持つ潜在収量を達成できていないことが多い。この原因としては土壌肥沃度の低さや水不足もあるが、水田造成、水管理、育苗、施肥、栽植密度等、栽培技術上の問題点も多く見られる。これら問題点を明らかにし、営農の改善によって収量増加を目指すことは、同じ投資で便益を上げる観点から重要である。さらには、適正品種の導入や作期の調整などにより、生産費を抑制し、労働のピークを分散するような営農方法を目指すことも重要である。この意味では、作業の種類に応じた農具の開発も重要である。ほとんどすべての農作業を鍬1本で行うことの非効率性は改善されるべきである。水田が持つ高く安定した生産性を実現することにより、新たに生産意欲が湧くことにもつながる。
畑作の場合は、休閑期間に緑肥作物を栽培、あるいは窒素固定能の高いマメ科作物との間作を行い、土壌肥沃度の維持あるいは向上に努めることにより、施肥量を抑えるよう努める。害虫に対して殺虫効果や忌避効果のある作物([23])を生け垣に栽培することも重要である。農民のほとんどが貧困であることに鑑み、資金的援助が不可能な場合、普及する営農技術はできるだけ安価なものを選択する。
(5)
農民の組織化推進
水田稲作を含め生産性の高い農業を普及・定着し、生活水準の向上に寄与するためには、水管理や農作業、生産資材の購入、生産物の販売、融資申請等について農民が個々に活動するよりも、それらを共同で担う農民組織のほうが望ましい。グループ活動により重労働に対する負担も軽減される([24])。また農民組織は、普及の受け皿として、普及員との接触の場を提供することができる。
(6)
農業支援体制整備
農民の開発に対する意欲とそれを可能とする潜在能力は一般に高く、小規模水田開発を始め、農業開発はかなりの部分が農民の自助努力により達成されると考えられる。必要なのはきっかけを与えて彼らの開発へのモティベーションを高め、彼らの能力を引き出すことである。
そのためには、生産の安定、向上のための研究・普及、教育・訓練、事業化に際しての初期投資や投入財購入のための金融等、外部の支援体制整備が必要である。
しかしながら、アフリカ諸国の現状をみると、これら支援体制整備のための財政確保が非常に困難であり、ほとんどが外部からの援助に依存している。現実的には、既存の支援体制の中で可能な改善策を限定的に講じるか、他ドナーや国際機関等が行う援助と協調することが考えられる。
おわりに
9年間におよぶ調査事業のとりまとめを依頼されたとき、即座に肯定的な返答を躊躇した。ことの重大さを考えたからである。調査に6年間かかわったとはいえ、通算のアフリカ滞在期間は1年には遠く及ばない。どれだけ現場を理解しているか、自信がなかった。しかし、これだけ長期にわたり、多くの関係者の協力を得て実施された調査の成果は、できるだけ多くの方々と共有しなければならないという思いは強かった。アフリカにおける現地レベルの情報の蓄積は、日本においては未だ驚くほど少ないからである。
調査は驚きの連続だった。本文に述べたように、ザンビア調査地の土壌肥沃度の低さは想像を絶するものであった([25])し、タンザニア調査地近傍の水稲収量の高さには逆の意味で驚かされた。また、野生動物の被害、農具の種類の少なさ、アフリカ農民の水田という概念の我々日本人のそれとのギャップ、社会基盤整備水準の低さ、農産物価格の悲しいまでの安さに対して化学肥料の価格の相対的高さ、各国政府の行財政能力の低さ、等々、アフリカ農業を取り巻く厳しい環境を感じるには、十分すぎるインパクトを与えてくれた。また、過去に実施され今は廃墟と化している、多くの農業プロジェクトの失敗事例([26])を見るにつけ、持続的開発の難しさを思った。
このような開発上の障壁の高さ、障害の多さを思うと、一体アフリカの農業は今後良くなっていくのだろうか? と不安になるかも知れないが、過大な期待を抱き、その実現を憂える前に、現在あるキャパシティの中でできるところから始めていくことが肝要だということを、この調査を通じて痛感した。その鍵は現地に生活する農民たちにあった。
調査を重ねる毎に深まった地元の農民たちとのつきあいを通じて、彼らの生活を今まで以上に知ることができ、計画立案の際、問題の優先順位を決定するのに大いに役に立った。そして優先順位に関する調査団と彼らの考えに違いがなかったことは、もちろん彼らに確認をとったのだが、実証調査後の彼らの主体的活動に結びついていったことで、明らかとなったと考えている。教育水準が低いため、普及技術の吸収が遅いという問題はあるかも知れないが、彼らの開発に対する意欲、自己発展のポテンシャルが非常に高いことを認識できたことは大きな収穫だった。
先に述べた多くの失敗事例からの教訓は、日本を始め先進国で利用できる技術がそのままアフリカの国々で利用できる場面は、現在のアフリカ諸国の社会・政治・経済状況の中では、非常に限られているということである([27])。大規模な基盤整備、教育・保健医療の充実など、国レベルでの開発を進めていくことももちろん重要であるが、貧困緩和を進めていくためには、同時に地元の人々の生活に立脚した技術の適用を早急に図るべきである。近年盛んに試みられている参加型開発手法はこの意味で有効であると考える。
このような日本とアフリカとの新しいつきあいは始まったばかりである。今後のつきあいがより良い方向に深まっていくために、アフリカの開発に関わる方々に本稿が少しでも示唆を与えることができれば幸甚である。
最後に、この調査事業への参加ととりまとめの機会を与えてくださったAICAFに感謝すると共に、現地で調査業務に参加いただいた専門家の方々に感謝したい。とりわけ、後半の6年間、厳しい環境の中、筆者と共に現地調査に参加し汗を流した専門家の方々からは、多くの事を学ばせていただいた。記して、深謝する次第である。
また、調査遂行上技術的な観点から有益な助言をいただいた国内検討委員会委員の方々にお礼を言いたい。さらに、当該国JICA現地事務所、JICA専門家、海外青年協力隊員、管轄大使館、相手国受け入れ機関、そして調査地域で関わった農民たちには、現場でしか得られない貴重な情報を提供していただいた。この場を借りて謝意を表したい。
要約表1 各国調査対象地域における各種条件比較
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コートジボアール
Bouake県Djebonoua郡Behoukro,
Djebonoua, Blediの3ヵ村
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タンザニア
Kilimanjaro州Moshi郡、Chekereni
Weruweru村
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ザンビア
Northern
州、Kasama県、Lazalo村及びMutaremukulu村
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マラウィ
Salima県、Bamdawe村
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社会・経済条件
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3ヵ村合計人口1,470人。Baouleの人。宗教は95%以上が伝統的アニミズム。数戸の大家族が分家して集落を形成。平均家族員数7.0人、就労可能人数3.6人。一戸平均耕作面積水田0.26ha、畑0.41ha。副業として日干し煉瓦作り、電気工事、小売店経営、食堂経営、魚行商、狩猟等。
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1950年代の鉄道建設時の労働者入植;面積約500ha、人口3,760人;宗教はローマンカトリック、プロテスタント、イスラム、最終学歴はほとんどが小学校卒業または中退。村の約半数が農家。経営規模は平均約1.6ha。土地利用は殆どが畑地。水田は準谷地田の約20haに限られる。
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ラザロ村は英領時1946年に創設。当時はBembaの人のみ。現在はManbwe、Namwanga、Lungu、Ngoniの人々が居住。人口希薄。チャンバンシダンボ面積約120ha、居住家族3戸のみ;土地利用は一部水田、養魚池、畑地、果樹。殆どは未利用。伝統的土地保有(村長の権限)。
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モザンビーク内戦による難民及び国内移住者が多い。イスラム教徒が多数。人口約2,000人。家族筆頭者の半数は未教育、その他も小学校教育程度。ダンボ面積は約30ha。ダンボ利用農家数63戸。ダンボでは水稲栽培、縁辺部では畑作。伝統的土地所有(村長の権限)、相続可。
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社会基盤
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地区の東側約1kmをBouakeとAbidjanを結ぶ国道が走る。Djebonouaの町とBouakeまで20km。3ヵ村は未電化。各村に数個井戸(手押しポンプ付き及び掘り抜き)有り。
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州都モシと結ぶ道路約5km。村内道路は村の西側を走る川がしばしば氾濫し、通行不能となる。村落給水システム(水道)がドイツNGOの援助により建設済。小学校あり。中学校無し。未電化。保健医療施設無し。
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州都カサマから国道(舗装)を約35km北上後、東へ8km、更に北へ10km。国道以外は未舗装だが、雨季も通行可。国道まで公共交通無し。未電化。学校、保健医療施設無し。
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サリマ県都から更に東へ20km(舗装)、その後北へ約5km(未舗装)。維持管理状況は共に不良。村内道路は2本南北に走る。小学校は教室、机・椅子等施設不備。診療所は、施設・医薬品不備。未電化。生活用水は手押しポンプ付き井戸が1つのみ。
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生産基盤
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Djebonouaダムが1988年に建設されるが、水路建設及び農地開発が未着手。
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1980年代初期に政府が建設した頭首工から灌漑水路有り。輪番灌漑の習慣。水田への灌漑水路は特に乾季水量不足。
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個人で灌漑水路(土水路)を建設。草堰または自然取水。毎年復旧工事要。乾季水量不足。
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地下水位の上昇及び河川の氾濫による湛水利用稲作。水の人為的制御不能。
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農業生産
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畑作:ヤム、キャッサバ、トウモロコシ、ラッカセイ、トマト、トウガラシ等(焼畑);ヤム、キャッサバ、豆類、野菜類(谷地田傾斜地)。谷地田(Bas
Fond):水稲。ヤム・野菜の換金性高い。
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畑作:圧倒的にトウモロコシ(インゲン、ラッカセイ等の間作)、ヒマワリ、コーヒー(面積減少)、バナナ
低湿地(Mbuga):水稲(可能なところでは2期作)
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畑作:伝統的焼畑(チテメネ):フィンガーミレット、キャッサバ、ローカルメイズ(1年目)、ラッカセイ(2年目)、豆類(3、4年目)、10〜15年休閑。常畑:トウモロコシ。ダンボ:水稲
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畑作(ダンボ縁辺部):トウモロコシ、キャッサバ、サツマイモ、カラシナ、トマト等。
水田(ダンボ):水稲(可能なところでは2期作)
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農業普及・研究
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T&Vシステムを採用。普及員が月2回同一村を訪問。移動手段(バイクの故障、燃料代支給が不確実)、農民が普及技術を適用できない(肥料入手困難)等の問題有り。
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村の普及員空席。水稲栽培技術水準低い。モシ市に日本の技術協力プロジェクト:(キリマンジャロ農業開発計画(KADP)及びキリマンジャロ農業技術者普及センター(KATC))
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T&Vシステムを採用;普及員数・質の不足、交通手段困難;カサマ市郊外にミサンフ地域農業研究センターがある。持続的畑作生産研究多数。
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T&Vシステムを採用;長年普及員が未訪問。
村の北にリフウ稲作試験場がある。稲作技術や一部種子は上記試験場から導入。
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コートジボアール
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タンザニア
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ザンビア
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マラウィ
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組織・制度
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以前乗用トラクターの共同利用を目的として3ヵ村合同で協同組合(GVC:Groupment
a Vocation Cooperative)が組織されたが、トラクターの故障を機に活動を停止した。
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村落委員会。経済と開発、社会福祉及び治安に係る小委員会。女性相互扶助組織がトウモロコシ製粉所運営、地ビール製造販売。灌漑水路の維持管理に係る労役提供。
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新規入植者(1980年代末〜1990年代初頭)多い。村長に居住権授与及び剥奪権限有り。
労働提供報酬は金銭よりも物納が一般的。
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村長の下にNdunaという補佐役が4名配置。他に教育、開発及び保健衛生の各委員会があり、不定期に会議を開いている。開発予算はない。重要な決定が必要な場合、村長が村民会議を招集。自発的に自警団を組織。新規入植希望者は村長に依頼。村長が決定できない場合伝統的権威者(Traditional
Authority)に調停を仰ぐ。
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市場・流通
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生産物はBouake(約20km)の市場で販売。コメは仲買人が買い付けに来る場合がある。
生産資材はBouakeにて調達。
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生産物は仲買人が圃場まで来て買い付け。都市に近いため価格情報もあり、流通上の問題は少ない。肥料・種子などの生産資材の入手も容易。種子は前作収穫物を利用。
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市場流通経済は殆ど未発達。生産者が生産物を市場まで運搬・販売。肥料・種子等生産資材もカサマまで行かないと入手不可。種子は前作収穫物を利用。
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コメは仲買人が圃場にて買い付けるのが一般的。他作物は村内市場にて販売。生産資材はサリマボマにて入手しなければならない。水稲種子はリフウ試験場から入手する場合がある。
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その他特殊環境
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谷地田の土地は政府から割り当てを受けており、割当者と実際の利用者が大きく異なっている。
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村長が篤農家、実業家であると同時に州議会議員。妻は村内婦人グループリーダー。村に対する影響力・指導力大。
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入植者の一人が元ミサンフ地域農業研究センター職員。
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伝統的権威者が対象村に居住。
カバによる農作物への被害甚大。
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要約表2 認識された問題点とポテンシャル
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コートジボアール
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タンザニア
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ザンビア
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マラウィ
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技術的問題
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降雨の不安定
河川流量の不安定、乾季の水不足
谷地田の排水不良
未熟な水管理技術
畦畔が狭い
普及サービスが不十分
コメの低収量
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不安定な降雨と水不足
塩害(特にナトリウム)
未熟な稲作栽培技術
未熟な水管理技術
支援サービスが不十分(普及・金融・協同組合活動等)
コメの低収量
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土壌肥沃度の低さ
限定された流通肥料の成分
不十分な政府の農業支援対策
コメの低収量
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ダンボにおける水調節の困難
乾季における水不足
野生動物による作物の食害
肥料・農薬等投入資材の不足
不十分な普及サービス
市場情報の欠如
コメの低収量
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社会経済的問題
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ダム下流幹線水路建設の未着手
土地所有権、使用権の不明確さ
農民の資金不足
脆弱な農民組織
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小学校欠席児童が多い
保健サービスが村内にない
盗難・窃盗が多発
雨季洪水による村内道路不通
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人口希薄
食糧不足
未熟な稲作技術
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食料不足(栄養不良)
安全な生活用水の不足(疾病増)
不十分な保健医療施サービス
不十分な小学校施設・備品・スタッフ
通信・連絡手段の不足
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ポテンシャル
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肥沃な土壌
豊富な水資源
冷涼な気候
強力な指導者の存在
技術協力プロジェクト(KADP及びKATC)への容易なアクセス
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地下水資源
肥沃なダンボ土壌
温暖な気候
大消費地への容易なアクセス
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要約表3 開発計画・実証試験及び住民参加
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コートジボアール
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タンザニア
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ザンビア
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マラウィ
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開発計画
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·
谷地田基盤整備計画
-
小規模溜池建設(ケース1)
-
取水堰建設(ケース2)
-
灌漑水路・排水路建設(共通)
-
農地造成
·
営農計画
-
作付け体系
-
栽培技術改善
·
灌漑施設運営維持管理計画
-
水利施設の運営
-
水利施設の維持管理
-
管理組織、費用負担
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·
新規水源開発による灌漑水路網建設
-
ポンプ灌漑施設建設計画
-
水路網改善計画
·
水管理方式改善
·
栽培管理改善
-
施肥法改善計画
·
作期再検討
-
早生品種導入
·
農業支援制度充実
-
小規模金融
-
農民教育訓練
|
·
営農方法改善
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施肥法改善(含硫肥料、微量要素入り肥料)
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定着農業の普及
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農業支援制度強化
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小規模金融
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研究・普及(施肥法・農業体系・低肥沃度土壌適応作物・品種、早生品種)
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灌漑開発
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水路改修
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灌漑農地造成
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地下水開発計画
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乾季灌漑及び生活用水供給
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食料増産・所得向上計画
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作付け体系改善
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栽培技術改善
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新規作物導入
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農民自立促進計画
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組織化
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組合定款作成
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教育訓練
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資金調達
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農業普及強化計画
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普及員定期巡回指導
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カバ対策
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カバ柵の建設
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カバの協同監視
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実証試験
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モデル水田造成(3ha)
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実証水田整備(1.16ha)
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水稲栽培(施肥)試験
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揚水灌漑施設建設(ポンプ室建設、揚水ポンプ設置、揚水灌漑パイプ敷設、吐水漕設置)
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施肥技術改善にかかる作物試験(水稲施肥時期、施肥量、肥料種類)
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農民研修
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硫黄施肥試験(水田・畑地)
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水田均平化試験
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手押しポンプ付ボアホール建設
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水稲・トウモロコシ施肥試験
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新規野菜導入試験
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堆肥製造試験
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スタディツァー
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教育訓練
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カバ柵建設
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住民参加
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実証試験における土木工事への労役提供
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計画段階の話し合い
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実証試験における土木工事への労役提供
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実証試験(作物試験)圃の借用
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農民組織(水利用組合)結成
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共同にて融資申請(自助努力)
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実証試験圃の借用
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調査・計画段階の話し合い
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実証試験における労役提供
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農民組織結成(自助努力)
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種子の共同購入(自助努力)
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共同圃場設営・運営(自助努力)
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作物販売(自助努力)
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[(1)[実際には5カ国であったが、対象国の一つナイジェリアについては調査期間中に政情不安となり、調査団の派遣を中止したため、本報告からは除いた。
[(2)]これらについては、高橋達児、ザンビア土壌のイオウおよび微量要素欠乏
、農林業協力専門家通信Vol.20,
No.6(2000.3)、pp.19-44、(社)国際農林業協力協会に詳述されているので参照されたい。
[(3)]微量要素等を混入した化学肥料の単価は日本の例で言えば同じNPK施用量であっても微量要素入り肥料は約2倍の価格となっている。
[(3)]この内容は、高橋達児、キリマンジャロ山南麓の塩害水田
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東アフリカ大地溝帯に集中分布するカーボナタイトの影響
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、農林業協力専門家通信Vol.22,
No.2(2001.7)、pp.1-29、(社)国際農林業協力協会に詳述されているので参照されたい。
[(4)]SAR=Na/((Ca+Mg)/2)1/2で導き出される。ごく簡単に説明すれば、SARは熱力学的に変換したナトリウム濃度と言うことが出来よう。
[(5)]調査終了後の1999年に村は電化された。
[(6)]トウモロコシの粉を熱湯に溶き、かき混ぜながら蒸しパンのようにして食する。ザンビアやマラウィではシマと呼ばれる。原料にはミレット、キャッサバ、コメなどが使われる。
[(7)]バナナとフィンガーミレットを原料としている。
[(8)]チテメネとは、地元の言葉で「木を伐る」という意味である。作付け面積分の森林を拓き、そこを中心として同心円状に作付け面積の約5〜6倍の範囲の樹木の枝を切り、それらを中央の拓いた土地に集めて燃やし、その灰分や土壌から供給される無機養分を利用して、通常3年連続して同じ場所で耕作される。焼畑移動耕作の一形態。
[(9)]当時日本から食料増産援助(KR
II)により尿素肥料が贈与されていたが、この肥料はイオウを含んでいなかった。
[(10)]水面浮遊植物で窒素固定を行うらん藻との共生関係にあり、これの緑肥としての土壌への還元により土壌の窒素富化が期待される。
[(11)]作物生育に及ぼす堆肥の効果は未確認である。
[(12)]マラウィにおける貨幣単位クワチャ。
[(13)]マラウィの調査地域では、雨季に水稲とトウモロコシの除草作業時期が重なり、この傾向が見られる。
[(14)]コートジボアール及びタンザニアがこの例である。コートジボアールでは1990年において30万トンの精米を輸入しており国内需要が大きく、一方、タンザニアの調査対象地域のコメは需要が大きい隣国ケニアへ闇米として相当量流通している。
[(15)]若月利之
2001. 熱帯アフリカの低地土壌、久馬一剛編 熱帯土壌学、180-196頁.
名古屋大学出版会.
[(16)]KADP地区では1枚0.3haの水田が基本なので、苗代面積や播種量、標準施肥量等については、0.3haを対象にした共通普及マニュアルが作成されている。しかし、他地域の既存水田は規模が小さく、1筆毎の面積が異なるために、共通普及マニュアルはそのまま適用できない。さらに、当地域は圧倒的にトウモロコシ地帯であるので、稲作に精通している普及員が不足している。
[(17)]マラウィではカバの農地への侵入防止のための夜間警備及び安全な飲用水がないことによる疾病増加が、農耕時間の確保に影響を与えていることが明らかとなった。
[(18)]ザンビアでは肥料の価格が高いこと及び配合の手間がかかることにより、通常農民は2種類以上の化学肥料は購入できないことが明らかとなった。そこで、当調査終了後、三菱商事及びダイヤケミカル社がイオウ及び微量要素入り化成肥料の開発に着手した。
[(19)]タンザニア、キリマンジャロ州のローアモシ地区において日本の資金協力で造成された水田では、土壌肥沃度が極めて高く、窒素肥料施用のみで単収が6.5t/haを越えており、他地域への波及効果も大きい。
[(20)]植民地時代、旧宗主国は肥沃度の高い土地を選択的に開発し、現在でもプランテーションの多くはこのような土地に残存する。一般の農民に残された農耕地の多くは肥沃度の低い土地である。ザンビアの中央ベルト地帯(高肥沃度土壌)に集中するプランテーションと北部や西部(低肥沃度土壌)の小農が耕す農地とは対照的である。
[(21)]一例として、オランダでは対アフリカ開発援助の基本方針として、農業ポテンシャルの低い地域に対して農業支援は行わないことを打ち出している。代わりに生計向上対策として、職業(技能)訓練などを支援している。
[(22)]この思想は
田中明
1997. 土壌改良・施肥による生産の維持・向上、田中明編著 熱帯農業概論、493-516頁.筑地書館で詳しく延べられている。
[(23)]マラウィで見たTephrosia
vogelliはその花に殺虫成分(Tephrosin)が蓄積されている。
[(24)]マラウィにおける調査で対象地域農民と共に見学した農民女性グループのメンバーは、共同作業によるメリットとして、「つらい作業でも(一緒にやることによって)乗り切ることができる」と精神的な支えとなっていることを強調した。
[(25)]西部州及び北部州で見たキャッサバは栽培で塊根の太さが大人の親指程度しかなかった。
[(26)]例えば、タンザニアでは北朝鮮の援助により建設されたモロゴロ州ダカワのコメの国営農場。土壌肥沃度の著しく低い(亜鉛欠乏が問題となっていた)場所を選定した結果、収量が上がらず慢性的な赤字経営が続いていた。ザンビアでは北部州チャンベシ川河川敷でEUの援助で実施された稲作プロジェクト。9年間にわたり実施され、流通経路が確立せず、終了と同時に実施前と同様の状況に戻った。マラウィではサリマ県で西ドイツ(現ドイツ)の援助で実施された畜産プロジェクト。役牛を導入しようと5年以上実施されたが、普及せずに終わった。同じく、サリマ県で実施されたECによる油脂作物(ラッカセイ)生産プロジェクト。市場がなく、栽培面積はほとんど増加しなかった。
[(27)]同様の指摘は、佐久間俊雄
1997. 農地の改良・保全、田中明編著 熱帯農業概論、479-489頁. 筑地書館でなされている。
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