ガーナにおけるネリカ(New Rice for Africa: NERICA)
7品種の試験栽培(2004年)

 

平成16年度から農林水産省の委託事業「アフリカ地域における食糧の持続的生産技術普及支援調査」を実施することとなり、その一部として、まずガーナ共和国においてネリカ稲品種の比較栽培試験を取りあげた。

 

1)

試験の場所 

ガーナの北部から南部までの代表的な地域として、Greater Accra 州ではガーナ灌漑開発公社GIDAのAshaimanプロジェクトサイト、Ashanti州ではKumasiにある作物研究所(CRI)、北部州ではTamaleにあるサバンナ農業研究所(SARI)で試験を行った。

 

2)

供試品種と種子量

NERICA5を除く6品種(NERICA1〜NERICA7)の日本産種子を3試験地に配布した。西アフリカ稲開発協会(Africa Rice Center: WARDA) からはNERICA1〜NERICA7を入手して配布した。これらの他に各試験地で代表的な陸稲品種を選んで対照品種とした。以下、品種名の略号としてN1J,N1Wのように用いる。Jは日本産種子、WはWARDA産種子を示す。

 

3)

試験方法

各試験地の実情に委ねたが、次年度試験のための採種を主目的とし、栽培は潅漑可能な水田での移植栽培とした。SARIでは畑直播栽培で間引いて1本立とした。
試験区は基本的には2.0 m×5.0 m(8 列× 34株)、病害虫や雑草は慣行法による。

表1.3試験地における栽培方法一覧

(写真1) SARI 圃場

 

(写真3 GIDA 圃場

(写真2) CRI 圃場

調査項目

i)

 播種・移植日(直播では播種・50%発芽日)

ii)

 草丈・茎数(穂数):移植(直播では播種)後2か月、および収穫時、20株

iii)

 出穂日: 出穂初め、及び50%出穂、20株調査

iv)

 品種の純度: 異型株は除去し、その数を記録する

v)

 収量構成要素: 株あたり穂数、1穂籾数、稔実歩合、1,000粒重、20株調査

vi)

 収量:3uを刈取り、水分14%換算

vii)

 その他: 病害虫、脱粒性、倒伏程度

 

4)

試験実施概要

(1)

SARIの実施担当者はDr. Wilson Dogbe、低い畑地でも湛水は2〜3日程度しかなかった。プラウ、ハロー各1回の後、6月18日に点播、試験区は品種ごとに産地を並べて配置した。発芽前に除草剤を散布し、発芽3,6週間後に手取り除草。収穫は畑地で10月18日、低地で10月20日である。

(2)

CRIの実施担当者はDr. Kofi Darteyで、Anum 潅漑地区の農家圃場で試験した。雑草を刈取り搬出後に耕起、その後の雑草を3回の除草剤で処理。7月9日に催芽籾を苗代に播種。潅水は土壌表面を濡らす程度とした。試験区は品種ごとに産地を並べて配置した。

(3)

GIDA

実施担当者はMr. Albert Feefi Swatsonで、Ashaiman試験圃場で実施した。圃場の雑草を除去した後、動力耕耘機で耕起し、10日後に化成肥料を基肥として3要素各20 kg/ha施用して、2回目の耕起および整地を行った。7月29日に苗箱に播種、8月19日に移植。水深は10cm程度とした。

 

5)

試験結果

WARDAからの種子は、アビジャンに移動後は空調なしで管理されているために、発芽力に不安があるとして確認を求められ、各試験地で日本産種子とともに発芽試験を行った。

SARIでは播種後であったため、圃場における発芽歩合を観察した。日本産は6品種平均畑地で75%、低地で73%、WARDA産はそれぞれ64%、62%であった。

シャーレによる発芽率は、CRIでは日本産が92〜100%、WARDA産が84〜99%で、GIDAでは日本産が85〜100%、WARDA産が74〜95%となった。日本産とWARDA産の種子活力の違いは、生育や出穂迄日数に影響するほどではないと見られた。

雑草は手取りで随時抜き取り、また採種を主目的とした試験であることから、異型株とみられるものは随時抜き取り、その数を記録した。

試験のねらいは、次年度の試験のためにできるだけ純正な種子を多く生産することに加えて、(1) NERICA各品種の地域における形質発現の差異を検出する、(2) 種子の出所による形質の違いが認められるか、を見ることである。このため、形質ごとに3つの試験地の調査成績を併記し、各試験地は日本産、WARDA産を対比できるように作表した。
 

(1)

50%出穂迄日数、成熟迄日数

SARIでは畑地と低地の2圃場間の水分条件の違いは大きくはなかったが、低地は畑地よりも出穂が早い傾向があった。畑地は10月18日、低地は10月20日に一斉に収穫した。CRIでは試験圃場が遠隔地のために出穂調査データは正確ではない。GIDAでは20株の定点調査で出穂した穂の数を毎日数えて50%出穂日を算出したが、反復間で最大13日の差があり、苗不足をおそれて追い播きをしたため変動が大きくなった。

調査法が異なるため結論は保留するが、@ 種子の由来による違いは明らかではない。A 比較品種TOX3377およびその他の品種の成熟まで日数をCRIとGIDAで比較すると、CRIで日数が多くなっている。日本では7品種の中で、N6がもっとも晩生でN1がこれに次ぐが、CRIでの成熟もN1がN6に次いで晩生で、SARIではN6は他の品種並あるいはやや早く、N1が最も晩生になっている。

出穂・成熟の早晩の場所による変化(顕著なものとして、N1が北上するほど晩生になるような傾向)が、気温あるいは他の要因によるのかどうかは、さらに検討を要する。なお、添付のグラフ1,2に見るように、N6はSARIでも日本(2003年は冷夏であった)でも出穂早晩の変動がきわめて小さいことが注目される。

 表2. 50%出穂迄日数および成熟迄日数の比較

※GIDAは種子産地ごとに2反復あり、反復間に大きな差が認められる品種があったので、平均値の後の( )内に両区のデータを示した。
※GIDAの比較品種TOX3377-34-3-3-7は日本産とWARDA産のブロックごとに用いられているので (J), (W)としてそれぞれのデータを同様に示した。

 

(2)

草丈・茎数(穂数)

SARIは播種後60日の分けつ数(12株平均)および成熟期の20株の草丈・穂数のデータである。CRIは成熟期の草丈は20株、穂数は75株を調査した。GIDAは移植後2週間ごとに測定したが、ここには移植後6週間におけるデータと成熟期のもののみを掲げる。

SARIの生育期の分けつ数と成熟期の穂数は畑地と低地で逆転しているが、土壌水分条件によるのか、または土壌の肥沃度の違いによるのかは不明である。草丈についても、低地でむしろ短くなっている。穂数はSARIの畑地が低地よりも一貫して多く、また多くの場合日本産はWARDA産よりも穂数が少なくなっている。CRIとGIDAではその差がはっきりしないので、これが場所を異にする配列によって地力差が出たのかどうかは未詳。 草丈で見るとCRIがもっとも長いが、施肥量の差によるものと考えられる。CRIとGIDAとの施肥量の差を考えると、穂数の違いは大きくない。CRIでは穂長を測定しているが、最短のN1Wで22.1cm、最長のN6Wで27.1cmであり、このことからN6Wの稈長は117cmとなるが、最後まで倒伏はなく、強い稈質であることが示されている。NERICA品種群は一般に穂数は施肥に反応しにくい穂重型であると言える。

表3. 草丈・茎数・穂数の比較

※CRIの比較品種TOX3377-34-3-3-7は3プロットあるため、その平均値を示した。

 

(3)

1穂籾数と稔実率

穂数では施肥量の多少による効果がほとんど認められなかったが、1穂籾数ではCRIはGIDAの1.5〜2.1倍となった。共通の比較品種TOX3377でも同様である。穂長のデータはCRIしかないため表には示さないが、1穂籾数のこの大きな違いは、施肥が穂数の増加につながらなかったのに対して、穂長・籾数の増加を通じて増収につながることを示し、少げつ穂重型品種であるNERICAの特色と見られる。なお、CRIにおける籾数の増加が稔実率の低下をもたらしているが、畑状態で栽培したSARIや潅漑水のあるGIDAで、籾数が少ないのに稔実率がCRIよりもそれほど高くない理由については検討を要する。

表4. 1穂籾数と稔実率

 

(4)

籾千粒重および収量

千粒重の調査は、SARIでは他の収量構成要素と同じくランダムに選んだ20株から、CRIは1株200粒ずつのサンプルの測定値(N= 8〜10)から、GIDAでは3u刈取りからすべての収量構成要素を調査している。SARIの畑地と低地で、N1以外は差がなく、潅漑したCRIとGIDAの比較ではCRIで約2g重いが、これは施肥量の差による粒の充実の違いであろう。

収量の表示はいずれも収量構成要素から計算した値をkg/haで左側に、坪刈りによる値をt/haで右側に示した(CRIとGIDAではそれぞれをa、bで示す)。 

坪刈りはSARIでは畑地、低地それぞれで3u(75株)刈取り、14%水分に換算した値である。CRIでは8〜10株測定の粒重データを用いて換算した。水分の計測はできなかったので補正していない。比較品種TOX3377は成熟が遅れ、取扱いに誤りを生じたので調査から除外した。GIDAでも3u刈取りで、a、bいずれも14%水分換算値である。

収量:SARIでは畑地より低地が明らかに高く、特に比較品種Digangが高いが、低地で収量構成要素から計算した値は、Digangに次いでN6WおよびN4Wが高い。CRIではN7Wの著しい低収は鳥害による。坪刈りでは7t/haを超えるものがあるが、刈取り株数が少ないので、収量構成要素から推定したもので見ると、N6やN4が注目され、SARIで得られた結果と重なる。GIDAでは日本産種子区(A)とWARDA産種子区(B)の間に、比較品種TOX3377で見るように地力差があって、各品種でのJとWの差を生じた。

表5.籾千粒重および収量の比較

 

(5)

その他の品種特性

CRIの調査結果を中心に、日本における観察を加えて、各品種の特性、純度について次のように記述する。

NERICA 1:

葉鞘下部、護頴、葉身先端、節、籾、稃先にアントシアニン着色あり、無芒、香り米。種子産地間に差なし(写真4)。

NERICA 2:

稃先、芒にアントシアニン着色あり。長短芒。種子産地間に差なし。
異型株が目立った(GIDAでは特にN2Wに多かった)。

NERICA 3:

アントシアニン着色なし。無芒。GIDAでN3Wに異型株がやや多かった。

NERICA 4:

無芒。N4Jはアントシアニン着色がなく、止葉が立つ。N4Wは稃先着色あり、穂が止葉の上にでることで、違う種子が届いたと考えられる(写真5)。

NERICA 5:

NERICA2と酷似する。GIDAではN5Wに異型株多数で分離と判断した。
SARIでも分離中と判定。

NERICA6:

無芒、無着色。長稈、長穂。稈長が不揃い。

NERICA7:

無芒、無着色。長稈、長穂。稈長が著しく不揃い。固定不十分とみる。

(写真4)

(写真5)

( 以上 ) 


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